基調講演概要
Drupal CMSの誕生
Drupalは、長年にわたり強力なローコードプラットフォームとして知られてきました。しかし、近年の競合他社の台頭により、Drupalの使いやすさが課題となっていました。この状況を打開するため、2024年5月のDrupalCon North Americaで「Drupal Starshot」として発表された新バージョンが、正式に「Drupal CMS」としてリリースされることが決定しました。この新バージョンは、非技術者でも直感的にウェブサイトを構築できるよう設計されており、操作の簡便さと柔軟性の両立を目指しています。また、ローコードアプローチをさらに進化させ、技術者と非技術者の間のギャップを埋めるための新たなインターフェースとツールが多数導入されています。
新しいブランド戦略
Drupal CMSのリリースに伴い、ブランドの刷新が行われました。新しいブランドガイドラインは、モダンで一貫性のあるビジュアルアイデンティティを提供し、新規ユーザーへの訴求力を高めています。このブランド刷新は、Drupalの歴史と多様なコミュニティを尊重しつつ、新たな市場へのアプローチを目指しています。特に、初心者から上級者まで幅広いユーザー層に対応することを目指しており、Drupal CMSは「使いやすさ」と「柔軟性」を兼ね備えたプラットフォームとしての地位を確立しようとしています。これにより、Drupalはさらに市場での競争力を強化し、より多くの新規ユーザーを引き込むことが期待されています。
直感的なインストーラー
Drupal CMSでは、ユーザーがレシピと呼ばれる事前構築された機能セットをインストール時に選択できる新しいインストーラーが導入されました。これにより、特定のウェブサイトニーズに合わせた機能を簡単に導入でき、セットアップ時間を大幅に短縮します。例えば、ブログ、オンラインショップ、ポートフォリオなど、用途に応じたレシピを選ぶことで、迅速に最適なウェブサイトを構築することが可能です。この新しいインストーラーは、初心者でも迷うことなくサイトの基本設定を完了できるように設計されており、導入プロセスの全体的な使いやすさが大幅に向上しています。
レシピ機能の活用
レシピは、モジュール、設定、デフォルトコンテンツを組み合わせたパッケージで、一般的なウェブサイトの要件を満たすために設計されています。例えば、イベントサイト用のレシピを使用すれば、経験豊富な開発者が1日かけて構築していたものを、非開発者でも数クリックで作成可能です。レシピの利点は、技術的な知識がなくても簡単に高度なウェブサイトを構築できることです。また、レシピは柔軟にカスタマイズ可能で、ユーザーが必要に応じて設定を変更し、自分のニーズに合ったウェブサイトに仕上げることができます。これにより、Drupal CMSはさらに幅広いユーザー層に対応できるようになりました。
プロジェクトブラウザーの統合
Drupal CMSでは、プロジェクトブラウザーを通じてレシピを簡単に検索・インストールできます。これにより、ユーザーは必要な機能を迅速に見つけて導入でき、ウェブサイトの構築プロセスがさらに効率化されます。プロジェクトブラウザーは、モジュールやテーマの検索に加え、ユーザーのスキルレベルに応じた推奨アイテムも表示する機能があり、初心者でも迷うことなく必要なツールを見つけられるよう設計されています。また、インストールプロセスも直感的で、ウェブサイトのカスタマイズがスムーズに進むようサポートされています。
AIによるサイト構築支援
AIエージェントが導入され、コンテンツタイプの作成、フィールドの設定、ビューやフォームの構築など、サイト構築の各プロセスを支援します。これにより、技術的な知識がなくても高度なウェブサイトを構築できるようになります。AIエージェントは、ユーザーのニーズに基づいて最適な設定を提案し、複雑な操作をシンプルにします。また、リアルタイムでのアシスト機能により、ユーザーは質問をしながらサイト構築を進めることが可能です。これにより、従来のDrupalの複雑さが解消され、初心者でもスムーズにウェブサイトを構築できる環境が整いました。
責任あるAI開発方針
AIの活用に伴い、Drupalは「責任あるAI開発方針」を策定しました。この方針は、人間の関与、透明性、LLM(大規模言語モデル)の交換可能性、明確なガイダンスの4つの原則に焦点を当てています。特に、人間の関与を確保することで、AIによる自動化が進む中でもユーザーの意思決定を尊重し、誤った判断が行われないようにすることを目指しています。また、AIの動作を透明化し、ユーザーがどのようなプロセスで結果が導き出されたのかを理解できるようにする取り組みも進められています。このような方針により、Drupalは信頼性の高いAI機能を提供し、ユーザーが安心して利用できる環境を整えています。
SEO最適化レシピ
SEO(検索エンジン最適化)に特化したレシピが提供され、必要なモジュールを組み合わせてサイトを最適化します。これにより、検索エンジンでの可視性が向上し、トラフィックの増加が期待できます。SEO最適化レシピには、メタタグの自動生成、サイトマップの作成、ページの読み込み速度の最適化など、SEOに必要なすべての機能が含まれています。また、ユーザーが自身のコンテンツをより効果的に最適化できるよう、推奨設定やアドバイスも提供されます。このように、SEOに関する専門知識がないユーザーでも、簡単に検索エンジンでのランクを向上させることが可能です。
エクスペリエンスビルダーの導入
新たに導入されたエクスペリエンスビルダーは、コンテンツ制作者やデザイナー向けのツールで、レイアウトデザイン、ページビルディング、基本的なテーマ設定、コンテンツ編集機能を提供します。これにより、ユーザーは直感的にウェブサイトのデザインとコンテンツを管理できます。エクスペリエンスビルダーは、リアルタイムプレビュー機能を搭載しており、変更内容が即座に反映されるため、デザインプロセスがより迅速かつ効率的になります。また、ドラッグアンドドロップでコンテンツを配置できるため、専門的なデザインスキルがなくても、思い通りのウェブサイトを構築することが可能です。これにより、コンテンツ制作者がよりクリエイティブに作業を進められる環境が提供されています。
Reactによるモダンな管理UI
Drupal CMSの管理UIは、Reactを用いたモダンなUIになりました。これにより、より高速で応答性の高いユーザーエクスペリエンスが提供され、管理作業が効率化されます。Reactベースの新しいUIは、シングルページアプリケーション(SPA)として構築されており、ページのリロードを最小限に抑えたスムーズな操作感を実現しています。また、UIの一貫性とモジュール間の統合性が向上しており、管理者が異なる機能間で直感的に操作を進められるようになっています。これにより、従来のDrupalの管理画面に感じられていた煩雑さが大幅に改善され、管理者がより快適に作業を行える環境が整いました。
まとめ
Drupal CMSは、非技術者でも使いやすく、直感的にウェブサイトを構築できるように進化しています。新しいレシピ機能やAI支援により、サイト構築の効率が向上し、初心者から上級者まで幅広いユーザー層に対応しています。また、ブランド刷新やモダンな管理UIにより、ユーザー体験も大幅に向上しました。これにより、Drupalはより競争力のあるプラットフォームとして成長を続けています。
参考URL
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