デジタルエクスペリエンスプラットフォームとして進化を続けるDrupalが、待望の新バージョン「Drupal 11」をリリースしました。システム要件の変更からコンテンツ管理機能の強化まで、エンタープライズでの実用に向けた進化を遂げています。本記事では、Drupal 11の動作環境要件とDrupal 10からの変更点を詳しく解説します。Drupalの更新を検討されている方、新規導入をお考えの方に向けて、実務に役立つ情報をお届けします。
Drupal 11の動作環境要件を確認する
Drupal 11では、より高いパフォーマンスと安定性を実現するため、動作環境要件が更新されています。特にPHPバージョンとデータベース要件の変更は、システム更新計画時に重要なポイントとなります。
基本システム要件
項目 | 要件 |
---|---|
Webサーバー | Apache 2.4.7以上、Nginx 1.1以上 |
PHP | 8.3 |
メモリ(RAM) | 最小1GB(推奨:2GB以上) |
PHPメモリ | 最小64MB(本番システムでは128MBもしくは256MB) |
データベース要件
データベース種別 | 必要バージョン |
---|---|
MySQL | 8.0以上 |
MariaDB | 10.6以上 |
PostgreSQL | 16以上 |
SQLite | 3.45以上 |
必須PHPエクステンション
- PDO
- XML
- GD-library
- OpenSSL
- JSON
- cURL
- Mbstring
- zlib
Drupal 11の動作環境要件は、先進的なウェブテクノロジーの採用と、高いパフォーマンスの実現を目指して設定されています。特にPHP 8.3の必須化とデータベース要件の引き上げは、システムの安定性と処理速度の向上に貢献します。システムの更新や新規導入を検討する際は、これらの要件を満たす環境の準備が重要となります。
Drupal 10とDrupal 11の違い
Drupal 11では、コンテンツ管理の直感性向上、開発者体験の改善、そしてパフォーマンスの最適化など、多岐にわたる進化を遂げています。特筆すべきは、エンタープライズでの実用性を重視した機能強化です。シンプルな操作性を維持しながら、高度な機能を実現する設計思想は、デジタルマーケティング部門の業務効率を大きく向上させる可能性を秘めています。
以下では、Drupal 10からDrupal 11への主要な変更点を、8つの重要な観点から詳しく解説していきます。システム更新の判断材料として、それぞれの違いがもたらすビジネス価値にも触れていきましょう。
PHPとフレームワークの進化
Drupal 11では、基盤となるフレームワークが大幅にアップデートされ、最新のWeb技術標準への対応が強化されました。特に以下の変更点が、サイトの安定性とパフォーマンスの向上に貢献します:
- PHP要件の更新
- PHP 8.3が必須要件に(Drupal 10ではPHP 8.1)
- 最新のPHP機能を活用した処理速度の向上
- セキュリティ機能の強化
- フレームワークの進化
- Symfony 6.3以上への対応
- Twig 4.xテンプレートエンジンの採用
- より効率的な開発環境の実現
これらの進化により、より高速で安定したWebサイト運用が可能になります。
コンテンツ管理機能の強化ポイント
Drupal 11では、コンテンツ管理者の作業効率を高めるための機能強化が実施されています:
- 統合されたエンティティ管理
- コンテンツブロック、ノード、その他のエンティティタイプにおける一貫した管理体験
- リビジョン(改訂履歴)の統一的な編集機能
- 管理インターフェースの改善
- 管理ツールバーの高速化
- 権限管理のためのクイックフィルター機能追加
- 新しいアナウンスメントフィード機能の標準搭載
- Workspacesモジュールの安定化
- コンテンツ更新の一括ステージング機能
- スポーツイベント結果など、タイミングが重要な更新の効率的な管理
- 複数ページの同時更新における事前レビュー機能
開発者向け機能の改善点
開発者の生産性向上を目指し、以下の機能が強化されています:
- Single-Directory Components (SDC)の統合
- コンポーネントベースの開発をサポート
- 単一ディレクトリでのコンポーネント管理
- フロントエンド開発者のDrupal学習負担軽減
- デバッグ機能の拡充
- 「Twig Development Mode」の導入
- キャッシュ制御オプションの追加
- テンプレート変更の即時反映機能
- JavaScript開発環境の最新化
- jQuery UIの依存度低減
- オンザフライでのJavaScriptファイル圧縮機能
- ファイルサイズを最大2/3削減可能
- APIとナビゲーション機能の改善
- Linkset標準を使用したデカップルドナビゲーション
- メニューデータの効率的な管理
- フロントエンド開発における柔軟性の向上
これらの改善により、開発者はより効率的にサイト構築や機能拡張を行うことが可能になり、結果としてプロジェクトの開発期間短縮とコスト削減が期待できます。
パフォーマンス最適化の進展
Drupal 11では、コアコードの最適化とパフォーマンス監視機能の強化により、さらなる処理速度の向上を実現しています。特筆すべきは、新たに導入されたGanderと呼ばれる自動テストフレームワークです。このフレームワークにより、重要なウェブパフォーマンス指標である「初回バイト到達時間(TTFB)」「最大コンテンツ描画(LCP)」「初回コンテンツ描画(FCP)」などを継続的に監視することが可能になりました。
また、BigPipeの機能強化により、遅延コンテンツのインターフェースプレビューがサポートされるようになりました。これにより、ページの再描画を抑制し、ユーザー体験を向上させることができます。さらに、レスポンシブ画像の遅延読み込みやoEmbedコンテンツの設定可能な遅延読み込みにより、初期ページ読み込み時間の短縮を実現しています。
セキュリティ機能の拡張
Drupal 11では、新しいアクセスポリシーAPIの導入により、セキュリティ管理の柔軟性が大幅に向上しています。このAPIは、従来のパーミッションやユーザーロールによる制御を超えて、二要素認証の状態やアクティビティレート制限などの条件を考慮したアクセス制御を可能にします。
既存の権限およびロールベースのアクセス制御は、この新しいAPIに移行され、カスタムプロジェクトや貢献プロジェクトでも追加のアクセスポリシーを実装できるようになりました。これにより、エンタープライズ環境での複雑なセキュリティ要件にも柔軟に対応することが可能です。
サイト構築ツールの刷新
Drupal 11では、より効率的なサイト構築を実現するため、新しい「Recipes API」が導入されました。これは、従来のインストールプロファイルの制限を解決し、より柔軟なサイト構築を可能にする革新的な機能です。Recipesを使用することで、イベント登録機能などの特定のユースケースに必要なモジュールの自動設定が可能になり、サイト構築に必要な作業時間を大幅に削減できます。
さらに、ブロック管理機能も刷新され、管理インターフェースから直接カスタムブロックを作成できるようになりました。タイプごとのブロック管理や、リビジョン管理機能の追加により、より細かな制御が可能になっています。また、レスポンスステータスに基づくブロックの表示/非表示の制御も可能になり、より柔軟なコンテンツ管理を実現しています。
コンテンツ作成環境の向上
コンテンツ作成者の作業効率を高めるため、Drupal 11ではCKEditor 5のさらなる機能強化が実施されています。特にコードブロック機能が改善され、特定のプログラミング言語やマークアップ言語の表示設定が可能になりました。また、テキストフィールドで特定のテキストフォーマットを強制できる機能が追加され、コンテンツの一貫性を保ちやすくなっています。
メディア管理の面では、ファイル名の自動整理機能が標準搭載され、アップロード時のファイル名サニタイズや翻字設定が可能になりました。さらに、デフォルトの画像スタイルがWebP形式に対応し、従来比で25%から34%のファイルサイズ削減を実現しています。これらの改善により、コンテンツ制作チームはより効率的に質の高いコンテンツを作成できるようになりました。
アップグレードパスの簡素化
Drupal 11では、Drupal 10からのアップグレードプロセスが大幅に簡素化されています。互換性の問題を最小限に抑えるため、モジュールとテーマの後方互換性が強化されました。特に、Drupal 10で非推奨となっていたコードが完全に削除され、APIの明確化が図られています。
さらに、PHP 8.3への対応により、アプリケーションの実行速度が向上しています。アップグレードツールの改善も進められ、開発者やサイト管理者の負担を軽減する工夫が施されています。これにより、システムの更新にかかる時間とコストを削減することが可能になりました。
まとめ:Drupal 11導入の判断ポイント
Drupal 11は、コンテンツ管理の効率化、開発生産性の向上、そしてパフォーマンスの最適化など、多岐にわたる進化を遂げています。特に、Single-Directory Componentsの統合やRecipes APIの導入は、開発効率を大きく向上させる可能性を秘めています。また、Ganderによるパフォーマンス監視やセキュリティ機能の拡張は、エンタープライズ環境での運用安定性を高める重要な要素となっています。
システムの更新を検討する際は、PHP 8.3への対応やデータベース要件の変更など、インフラストラクチャ面での準備が必要になります。しかし、簡素化されたアップグレードパスと強化された後方互換性により、移行のリスクは最小限に抑えられています。
2024年12月にはDrupal 11.1のリリースが予定されており、さらなる機能の拡張が期待されています。デジタルマーケティング部門にとって、Drupal 11への移行は、コンテンツ管理の効率化とサイトパフォーマンスの向上を実現する重要な機会となるでしょう。
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