
AIは「不可能」を可能にするという私たちの認識を変えつつあります。かつては想像もできなかったことが、今では日常の一部となっています。AIアシスタントに音楽を再生させたり、電気をつけたり、食料品を注文したりするのはもはや当たり前のことです。そして、生成AIの進化により、コンテンツ管理をAI駆動のタスクで強化することも、今では珍しくありません。
さらなる革新的な変化はどのようなものでしょうか?未来からのメッセージが届き、「もうすぐDrupalのウェブサイト上でAIに指示を出すだけで、必要な機能を追加したり、複雑な設定変更を行えるようになる」と知らされたらどうでしょう。しかも、コーディングのスキルやDrupalの専門用語は不要です。ただAIと自然な言葉でやり取りするだけでOKです。
このような未来はすぐそこまで来ています! 2024年のDrupalCon Barcelonaで披露された一連のデモは、参加者たちを驚愕させました。ここでは、DrupalのAIトランスフォーメーションに関する最新の洞察と、実際の使用例を紹介します。
DrupalにおけるAIの破壊的イノベーション
「このビデオを数人の開発者でない人々に見せたら、全員が驚いていました。Drupalでこんなことができるなんて思いもしなかったようです。開発者に見せても同じ反応でした。他の競合製品でこれに似たことをやっているのをあまり見たことがありません。」
— Drupal創設者 Dries Buytaert氏
Drupalは、OpenAIの台頭を受けてすぐにAI統合用の優れたモジュールを提供し始めました。それ以降、機能が提供する可能性はどんどん広がってきました。さらに、2024年のDrupalCon Barcelonaのキーノートスピーチで、Dries Buytaert氏はこれまでにないまったく新しいAIの可能性を示しました。信じられないように思えるかもしれませんが、すべては現実です。まだ本番環境での使用準備はできていませんが、コードはすでにテストできます。
スピーチの動画はこちらから視聴できます:https://www.youtube.com/watch?v=nhPiL4g972A
Drupalの驚異的AI機能はどこで使えるのか?
1. Drupal CMS
Dries氏がデモを行った内容は、Drupal CMSに組み込まれます。Drupal CMSは、Drupal Coreの上に構築された製品で、非技術者でも使いやすいように最適化されています。従来のDrupalは「Drupal Core」という名称で引き続き存在しますが、Drupal CMSは「Drupal Starshot」としても知られており、2024年のBarcelonaでDries氏はその正式名称が「Drupal CMS」になると発表しました。
このDrupal CMSは、AIのほか、レシピ(多言語サポート、イベント管理、アクセシビリティツール、SEO機能などが事前パッケージ化された機能セット)やExperience Builder(新しいページビルダー)が含まれます。2025年1月15日のDrupalの誕生日にリリースされる予定です。
2. AIモジュール
Drupal CMS用だけでなく、新しいAIモジュールも開発されています。このモジュールは、Drupal 10.2以降のすべてのDrupalウェブサイトでインストール可能であり、主要なAIモジュールのメンテナーが協力して開発したものです。このAIモジュールは、Drupal CMSに搭載される機能と完全に一致するわけではありませんが、同様のAI駆動の機能を提供します。
「世界のSarahたちへ」:Drupalにおける人間中心のAI
Drupal CMSは全般的に、そしてそのAI機能は特に技術に詳しくないユーザーに力を与えるべきです。Dries氏は彼らを「世界中のSarahたち」と呼んでいます。彼のプレゼンテーションにはSarahという完璧なユーザーペルソナが登場するからです。
Sarahは、ワインテイスティングツアーを提供する会社のマーケティングディレクターで、Drupalのサイト構築についてはほとんど知識がありません。それでも、彼女がAIとチャットするだけで、ウェブサイトに新機能を追加したり、設定を調整したりできるのです。
「Drupalで実現できることは、これまでのものと比べると非常に斬新です。外部の世界では、AIを使ったツールは使いやすいものが多いですが、ほとんどはプロプライエタリ(独自技術)です。一方、オープンソースのものは複雑なコードを持つものが多数派です。Drupalでは、その両方の要素を組み合わせた“人間中心のAI”を実現しており、これはDrupalならではの非常にユニークなものです。」
— Dries Buytaert氏
Drupalのための責任あるAIの4原則
力があるところには、大きな責任も伴わなければなりません。そのため、Drupalの創始者であるDries氏が述べているAIに関する核心的な信念の一つは、AI利用の基準を確立する必要性です。このアプローチは、下の画像の左側に描かれている悪意のあるAIではなく、右側に描かれているような有益なAIの開発へと私たちを導きます。
Dries氏が提唱する「責任あるAI」の4つの原則は以下のとおりです。
- 人間の介在(Human-in-the-Loop)
- AIの作業は、人がレビューし、さらに元に戻すことができる必要があります。
- 透明性(Transparency)
- AIの機能は隠し機能であってはならず、どこで使用されているか明確にする必要があります。
- 選べる言語モデル(Swappable Language Models)
- ユーザーは好きなAIモデルを選択できる必要があります。
- 責任あるAIの推進(Promoting Responsible AI)
- バイアスの削減、著作権の尊重、エネルギー効率の優先など、倫理的な価値観を持つAIモデルを選択できるよう、ユーザーを導く必要があります。
実際に動くAIを見せる感動的なデモ
コンテンツタイプの名前を変更する
Sarahのウェブサイトには「イベント」がありますが、ユーザーにとってわかりやすくするため、彼女はそれを「ワインツアー」に変更したいと考えています。彼女はウェブサイトの右下にある「Drupalエージェントチャットボット」をクリックすると、Drupalエージェントとのチャットボットウィンドウが開きます。AIが彼女の簡単な説明「イベントという名前をワインツアーに変更できますか?」を理解するので、Sarahは「コンテンツタイプ」が何であるかを知る必要はありません。ページを再読み込みすると、「イベント」というコンテンツタイプが「ワインツアー」に変更されているのが確認できます。

画像フィールドの追加設定
多くのウェブサイトでは、ユーザーが低解像度の画像をアップロードしてしまうことが問題となっています。もちろん、Drupalにはそのための解決策がありますが、それには一定の技術的知識が必要です。SarahがAIに自分の言葉で「高解像度の画像だけをアップロードできますか?」と質問すると、AIは彼女の意図を理解して、画像は最低限1920x1080ピクセルであるという制約を追加します。もちろんAIは高解像度とは1920x1080ピクセル以上を意味することも知っています。
タクソノミーの作成と分類用語の生成
コンテンツの分類はウェブサイトで人気の機能ですが、タクソノミー(分類法)という用語は技術に詳しくない人には難しく聞こえるかもしれません。そこでSarahは、単にAIにワインツアーをワイン産地別に分類し、ヨーロッパで最も人気のある上位20のワイン産地でそれらを埋めるよう依頼します。彼女の要求は簡単に実現されます。
代替テキストの生成
AIはコンテンツマネージャーをあらゆる面で支援することができます。その一例として、アクセシブルなコンテンツを作成するための画像の代替テキスト生成があります。これは、OpenAI、AugmentorAI、AI Interpolatorモジュールに関する私たちの記事をすでに読んだ読者にとっては、さほど驚くことではないでしょう。以下のデモでは、SarahがAIで代替テキストを生成するボタンをクリックします。彼女は生成された代替テキストを確認し、コンテンツ全体が適切であるかを確認できます。これは「Human-in-the-Loop(人間参加型)」の原則を実践しているのです。
Drupal以外のサイトからのAIによるコンテンツ移行
コンテンツの移行は常に困難な作業とされてきましたが、DrupalのAIにとっては簡単な課題です!この例では、Drupal以外のウェブサイトからコンテンツを移行する必要があります。そのウェブサイトのコンテンツは、単一の本文フィールド(本質的には1つのHTMLブロック)に詰め込まれていると、Dries氏は説明しています。そのため、このHTMLブロックを構造化されたDrupalのコンテンツタイプに変換する必要があります。
Sarahは「AIでコンテンツをインポート」というボタンをクリックし、ソースウェブサイトのURLを入力するだけです。すると、AIがそのコンテンツをクロールし、すべてのコンテンツをDrupalの各フィールドに自動的にマッピングします。例えば、日付や画像を特定して、それぞれのDrupalフィールドに適切に配置します。さらに、AIはコンテンツを分析し、実際のワイン産地を把握して、タクソノミーフィールドに自動的に入力します。まるで魔法のような機能です!
Viewsを使ったページの作成
特定のURLの下に「ワインツアー」のページを作成し、ユーザーがツアー名で検索したり、ワイン地域でフィルターできるようにするにはどうすればいいでしょうか?通常、これはViewsを使用して行うものです。Viewsは非常に強力なツールですが、初心者にとってはハードルが高いと感じられることがよくあります。
しかし、幸いなことに、AIがこのビューを簡単なリクエストだけで作成してくれます! AIが作成したビューは、後から人間が自由に編集できるため、微調整が必要な場合でも安心です。Dries氏によれば、ゼロからビューを作成するよりも、AIが作成したものを調整する方がはるかに簡単であり、Drupalの学習にも効果的だと言います。
紙のスケッチからのWebフォーム作成
紙に希望するフォームの手書きのスケッチを描き、その写真を撮影して、AIにDrupalのWebフォームを生成してもらうことができるでしょうか?もちろん可能です!
この例はDries氏のキーノートからではなく、Marcus Johansson、James Abrahams、Frederik Wouters、Martin Anderson-Clutzが行ったAIモジュールに関するセッションの一部です。
この機能は少し異なるアプローチを取っています。チャットボットの代わりに、AIタスク管理用のKanbanボードが使用されています。タスクを簡単な用語で定義するエピック(Epic)を作成するインターフェースがあり、そこに手書きのスケッチ画像(JPEG)を添付することができます。AIはそのJPEG画像を解析し、完全なDrupal Webフォームを自動生成します!
裏側の仕組みはどうなっているのか?
チャットボット、ユーザーインターフェース、Kanbanボードは、ユーザーがAIとやり取りし、進行状況を可視化するための方法の一部にすぎません。
しかし、Drupal CMSとAIモジュールの裏側で実際に動作しているのは、いわゆるAIエージェントです。これらのAIエージェントがDrupalを変革するとDries氏は述べており、これには多くの人が納得するでしょう。
現在、7つのAIエージェントが存在していますが、これはまだ始まりに過ぎません。
Dries氏の説明によると、これらのAIエージェントの主な役割は、DrupalのAPIとAIプロバイダーを接続することです。彼は、将来的には数十、さらには数百のAIエージェントが登場する可能性があるとも述べています。
AIプロバイダーのリストも拡大を続け、可能な限り多くのサービスが含まれる予定です。
この仕組みは抽象化レイヤー(Abstraction Layer)を使って構築されており、ユーザーは自分の好みのLLM(大規模言語モデル)を選択できるようになります。
さらに、企業は独自のLLMを構築し、それによって独自のAIプロバイダーと接続することも可能になります。
AIのコードはすべてオープンソースであり、フレームワークとして構築されています。そのため、誰でもコントリビュート(貢献)することが可能です。
Dries氏は、独自のモジュールを追加して機能を拡張することもできると述べており、開発者が積極的に関与することを奨励しています。
まとめ
AI駆動のイノベーションへのDrupalの大胆な飛躍は、これまで夢見ていた可能性の扉を開くものです。AIの力が手の届くところにあることで、ウェブサイトの作成と管理はこれまで以上に直感的で効率的かつアクセスしやすいものになるでしょう。
この新たな時代を受け入れ、AIとDrupalが共に実現できる可能性を最大限に引き出しましょう!
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