2025年11月17日から19日、奈良県のHotel Nikko NaraでDrupalCon Nara 2025が開催された。Drupal Asiaが主催し、アジアを中心に世界各国から開発者、デザイナー、ビジネスリーダーが集結。50以上のセッションが英語と日本語で展開され、Drupalの最新動向とコミュニティの活発な活動が示された。
Dries Buytaert氏が語るDrupalの未来
「20年間、人々は『Drupalはページ構築が難しい』と言い続けてきた。私たちは今、それを永遠に変えようとしている」
初日のキーノートでは、Drupal創設者Dries Buytaert氏が登壇。「20年間、人々は『Drupalはページ構築が難しい』と言い続けてきた。私たちは今、それを永遠に変えようとしている」と宣言し、Drupal Canvasの展開について語った。
Drupal Canvas:300クリックが30クリックへ
ニューヨーク州政府の事例では、140のウェブサイトと300名以上のコンテンツクリエイターを抱える大規模組織でも、アクセシビリティとガバナンスを保ちながらCanvasを活用できることが示された。従来300クリック必要だったページ作成が、AI生成から始めることで30クリック程度に削減できる可能性が示された。Aquiaは過去15〜16ヶ月で20名以上をCanvas開発に投入し、完全にオープンソースとして公開している。
AI統合とサイトテンプレート
「Drupalの強み—構造化コンテンツ、ワークフロー、バージョニング—はまさにAIが必要とするもの」とBuytaert氏は説明。Drupal AIイニシアチブには25のパートナー組織が参加し、Slackチャンネルには1,300名が参加している。また、サイトテンプレートとマーケットプレイスの構想も紹介され、10〜15のパートナーが初期テンプレート開発にコミット。2026年中のマーケットプレイス立ち上げを目指している。

日本の公的機関・企業事例
シャープヨーロッパ:グローバルB2B事業での大規模展開
シャープヨーロッパのデジタル変革責任者2名が、63のダイレクトオフィス、19言語、11通貨、48カ国、120,000の企業顧客を抱える複雑なビジネス環境におけるDrupal活用を紹介。多言語サポート、エンタープライズスケール、セキュリティ、オープンソースを選定理由として挙げ、現在17サイト・19言語で展開。「適切なパートナーとの関係」「ITとの協力」「継続的な投資」を成功の鍵として強調した。

デジタル庁:政府共通CMSプラットフォームの構築
デジタル庁が政府全体で利用可能な共通CMSプラットフォームをDrupalで構築した取り組みが紹介された。省庁横断的な展開が可能なオープンソースアーキテクチャ、大規模サイト管理の実績、活発なコミュニティによる強固なセキュリティガバナンスを理由にDrupalを選定。
デジタル庁ウェブサイトをプロトタイプとして開発し、Next.jsによるヘッドレスアーキテクチャを実装。WCAG 2.2準拠のデザインシステム、NICT翻訳エンジン統合、2週間ごとのアジャイルリリースが特徴だ。2024年には「政府共通ウェブサイトツール」を他省庁向けにローンチし、サイト統計、リンク切れチェック、フィードバックフォーム、アクセシビリティチェックを提供している。

技術セッションのハイライト
Drupal AIエージェント:自律的な意思決定システム
「AI Agents in Drupal CMS」セッションでは、AIワークフロー(事前定義されたコードオーケストレーション)と真のエージェント(自律的に意思決定するシステム)の違いが示された。実演では、Function CallsとTool APIの2つのアプローチを使ったイベント管理エージェントの構築が紹介され、Drupalイベントノード作成とGoogleカレンダー統合をエージェントでオーケストレーションする様子が示された。
SDCとShoelace:フレームワークレスなモダンUI構築
オーストラリア政府機関の開発者による「I'm Not a Front-End Dev」セッションでは、Single Directory Components(SDC)とWebコンポーネントライブラリShoelaceを組み合わせた実践的なソリューションが紹介された。SDCは完全な再設計なしに段階的な改善を可能にし、Shoelaceは ReactやVueに依存しないブラウザネイティブなコンポーネントを提供。Shadow DOMによるスタイルカプセル化により、従来のBootstrap実装で問題となるCSS競合を回避する。
コミュニティの多様性:DrupalMeetup奈良の挑戦
ノンエンジニア2名が登壇したセッションでは、「崖を登るだけが世界ではない。Drupalを使って何かを成し遂げる世界こそが本当のDrupalの世界だ」と主張。月1回ランチタイムに開催しているDrupalMeetup奈良の取り組みを紹介し、DXをテーマに幅広い職種が参加できる場を作り、立場を超えた対話を重視する姿勢が評価された。

コントリビューションデーとコミュニティ活動
最終日のコントリビューションデーでは、経験豊富な開発者がバグ修正に取り組む一方、初心者はドキュメント翻訳に貢献。「自分の書いたコードがDrupalプロジェクトに取り込まれる可能性があることに感動した」という初参加者の声が、オープンソースコミュニティの本質を体現していた。イベント前日のDrupalCon史上初「Nara Treasure Hunt」は、奈良の歴史的名所を巡りながらDrupalトリビアに挑戦するユニークな企画として好評を博した。
まとめ:新たな成長局面へ

DrupalCon Nara 2025は、Drupal CMS 2.0リリースを控え、プロジェクトが新たな成長局面に入りつつあることを印象づけるイベントとなった。Buytaert氏が示したビジョン—Drupal Canvasによる使いやすさの向上、AIとの深い統合、サイトテンプレートによる採用障壁の低減—は、「20年間難しすぎた」と言われ続けたDrupalを根本から変える可能性を秘めている。
デジタル庁やDrupalMeetup奈良といった日本の事例は、エンタープライズ採用の成果と、技術者以外を含むコミュニティの広がりを示した。「戦略的イニシアチブへの貢献者数は過去最高」というBuytaert氏の言葉通り、約25年の歴史を持つDrupalが新たな活力を得つつあることが実感できるイベントだった。2026年以降の日本でのDrupalイベントについても期待が高まり、日本のDrupalコミュニティの盛り上がりはまだ始まったばかりだ。
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