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ANNAI は Drupalcon Portland 2022 にて、我々の手掛けた政府統一Webサイトプロジェクトと、その検証事業の一環としてのデジタル庁ウェブサイトのヘッドレス CMS(Drupal + Next.js)への移行について講演を行いました。

講演は 3 部で構成されています:

  1. デジタル庁ウェブサイトのヘッドレス CMS への移行
  2. 政府統一Webサイトの実現のための調査事業
  3. 今後の方向性について

このブログポストでは、上の第 2 部について記しています。

府省サイトの統一が求められた経緯は、利用者に対する利便性の向上や、開発や運用の効率の向上が挙げられます。詳細についてはこのシリーズの最初のポストで詳しく説明していますのでそちらをご覧ください。

(* なお、このブログポストの内容は 2022/04 の講演の内容であり、調査の進行に伴い実際の計画は随時変更される可能性がありますので予めご了承ください。

標準化と統一化の方法の調査

政府サイトの標準化と統一化には様々な方法が考えられますが、それが具体的にどのような形を取り得るかについて他国の例を調査すると同時に、複数のアイディアを評価しました。

他国の例として参考にしたものは以下の 3 つです:

システム・サイト 概要
LocalGov Drupal イギリス 地方政府向け Drupal ディストリビューション*
DrupalGov オーストラリア 政府組織向け Drupal ディストリビューション*。SaaS および PaaS としても提供されている。
gov.uk イギリス イギリス政府のウェブサイト。システムとして統一されているだけでなく、ユーザーにとって分かりやすいコンテンツを省庁が共同で作成。カスタム CMS。

*ディストリビューションを利用すると、インストール直後に特定の機能やコンテンツタイプが利用できるようになります。同様のサイトを複数立ち上げたい場合、1 つのディストリビューションを開発することで開発・保守の効率を大幅に引き上げることが可能になります

この調査と評価から、日本政府の統一ウェブの構築に適用できるアプローチは大きく分けて 4 つ挙げられます :

  1. デザインシステムを適用し、サイトは各府省が個別に運用
  2. 全サイトをディストリビューションのような同一システムで構築し、UI を統一。サイトは各府省が個別に運用
  3. 各府省のサイトを単一システム上で運用、省庁ごとに独自のセクションを持つ
  4. 3 に加え、各省庁が協力し、ユーザー視点のコンテンツを単一システム上に掲載する

これらのオプションは上から順に統合の度合いが深くなります。1 が最も表層的で、4 が最も徹底しています。1 は政府の観点からは最も実現が容易なものの、実際にユーザーが受ける恩恵という意味では限定的になる懸念があります。ユーザーにとっての視点からは gov.uk 方式となる 4 が最良であるものの、同時にコンテンツの執筆やコンテンツガバナンスを始めとする運用のハードルが飛躍的に高くなるという課題が生じます。

では、政府統一Webに最もふさわしい統一のモデルはどれになるでしょう。これを決定するためには、まず日本政府のウェブサイトが抱えている問題を理解し、次にソリューションの実現に際してどのような制約があるかを洗い出す必要があります。

日本政府のウェブサイトが抱える問題

プロジェクト発案時、政府の視点からは以下の問題が挙げられていました:

  • 政府サイト間での UI / UX の一貫性の欠如と、それに伴うユーザビリティー問題
  • 複数ドメイン間での情報の分散
  • それぞれのサイトが異なるシステムで構築されていることによる開発・運用コスト上の非効率性

プロジェクト開始後、デジタル庁と ANNAI の共同チームはユーザー視点に基づく調査および考察から、さらに以下のような問題を特定しました:

  • ユーザーの検索エンジンへの過度の依存
  • コンテンツの分散がもたらすドメインオーソリティーの低下に伴う、検索結果のランキングの低迷
  • 検索結果から PDF に至った場合の、関連情報の収集の難しさ

以下は、ユーザーがサーチエンジンの検索結果から政府サイト上の PDF に至った際のユーザーフローを表しています。このようなケースでは PDF の配布元のページが特定できないことが少なくありません。結果として、関連する情報を得るために何度も検索エンジンと政府サイトを往復しなければならなかったり、検索エンジンに戻る度にまとめサイトをはじめとする、情報の新しさや正確さが保証されていない民間サイトに惑わさてしまうことがあります。

現状の政府サイトが抱える問題を表すユーザーフロー図

政府統一Webの実現に立ちはだかる制約

では上記のアプローチを実現する上で、どのような制約があるでしょう。

  1. 各府省庁のサイトは 10 万以上のページにより構成されている
  2. 各府省庁のシステムは独自に開発・運用されている
  3. 各府省庁は縦割りである

1 および 2 は、既存のコンテンツがそれぞれ独自のフォーマットやマークアップを使って作成されていることを意味します。それらを標準化した上で新たなシステムに移行するには膨大な労力を要します。

また、3 の制約はユーザーにとって有用なコンテンツを府省庁が共同で作成することを困難にします。これは時間をかけて段階的に解決していくことは可能かもしれないものの、新しいシステムを構築するにあたって即座に対応できる類の課題ではありません。

現状の問題と制約にもとづく提案

上記の問題および制約を鑑みて、ANNAI は統一ウェブの可能性として以下を提案しました:

単一ドメインへの全サイトの移行

これによりドメインオーソリティーの向上が見込まれ、またコンテンツの横断検索が可能になります。

統一サイト上では共通コンテンツを扱う

刊行物・制作・広報その他、全府省庁サイトに共通のコンテンツを扱うことで、省庁ごとの機能のカスタマイズを不要にします。

省庁共同でのコンテンツ制作は後のフェーズでの対応を目指す

ユーザーにとって便利価値の高いコンテンツの制作は、システムの仕組みだけで解決できない複雑なガバナンスなどの問題を孕むため、多くの準備・調整期間を要すると思われます。そのため、この課題は後のフェーズでの解決を目指します。

「行き止まり」の解消と見つけやすさの向上と

行き止まりの解消

先に触れたように、現状では民間検索エンジンの検索結果から PDF にアクセスした場合、しばしばファイルの配布元ページや内容の関連情報が記載されていないため、関連情報を簡単に見つけられないという「行き止まり」問題が生じます。統一ウェブでは、PDF の内容を抽出してページに埋め込むことで、検索結果から PDF に至ってしまう問題を防ぎます。

見つけやすさの向上

民間検索エンジンの検索結果から統一ウェブのページに到達した際に、関連情報が表示されるとともに、ページの属性(コンテンツタイプやカテゴリー他)に基づいてファセットが設定されます。ファセットを調整することで、ページに関連する情報を絞り込んで検索することができます。

また、ファセットによる絞り込みやサイト内検索を使っても求めている情報が見つからなかった場合は民間サーチエンジンを利用することになりますが、政府サイトのみを検索対象に設定した民間サーチエンジンのフォームを政府統一 Web 上で提供することで、検索結果に民間のまとめサイトなどが混入することを防ぐことができます。

このような改善により、サイト内のコンテンツの見つけやすさが大幅に改善されると見込まれます。下のユーザーフロー図では、先の図と比べて検索エンジンと政府サイトとの往復がほとんど発生しないことが分かります。

既存の問題に配慮した、統一ウェブのビジョンを表すユーザーフロー図

アーキテクチャー

初期と後期ではシステム要件が多少異なるため、それに伴いアーキテクチャーも異なります。

初期:単一 Drupal インスタンスと Group/Subgroup モジュールの利用

初期に統一 Web に移行してくる省庁の数は 3〜4 を想定しているため、単一の Drupal インスタンスでの運用を検討しています。

Group/Subgroup モジュールを利用することで、組織内の階層を表現し、それに関連する複雑な権限を設定することを可能にします。

後期:各府省庁ごとに Drupal インスタンスを利用、中央ストレージと連携

利用する省庁が増えるにつれパフォーマンス問題が生じる懸念があるため、各府省庁がそれぞれ Drupal インスタンスを持ち、これを中央ストレージと連携させることを検討しています。

まとめ

複数サイトの標準化・統一化にはさまざまな方法があります。日本政府サイトの抱える課題は、プロジェクト発足当初に把握されていたものだけではなく、調査を進めていくなかで具体的な課題が浮上してきました。

また、課題に対するソリューションは色々と考えられるものの、その実現のためには制約に配慮する必要があり、現時点で最も適切と思われるソリューションを考案してきました。令和 4 年度の調査のなかでより多くの課題が明らかになるなかで、ANNAI は効果の大きいソリューションを提案していくことを目指します。

次の記事「ANNAI の描く政府統一 Web サイトの像:Drupalcon Portland 2022 での ANNAI の講演パート 3」では、今後の方向性についてお話しさせていただきました。

 
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この記事を書いた人: Mori Sugimoto

2006 年から欧米の大規模 Drupal 案件で開発・アーキテクチャーやコンサルティングなどを担当。コア・拡張モジュールの翻訳、また国内外でのミートアップのオーガナイズや Drupalcon での登壇およびボランティアなど積極的にコミュニティに参加。2008 年より Drupal Security Team コーディネーターを務める。オランダ在住。

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