Drupal 8 海外事例:The Digital Transformation of london.gov.uk
ロンドン市役所がデジタルエンゲージメントプラットフォームの中心に置いているのはlondon.gov.ukです。2011年12月にCMSがアップグレードされた以外は、サイトは2010年以降ずっと静的なままでした。
そんな中、ロンドン市長はlondon.gov.ukをデジタル戦略の中心的な役割と位置付けました。それに伴い、ウェブサイトのコアユーザーとそのニーズを特定するための調査が行われました。
市役所の関係者は、london.gov.ukのデジタル移行に触発され、The Digital by Default Service Standardの原則を採用することにしました。18ヶ月に及んだこのプロジェクトは、5つの違う組織がコラボレーションして行われました。プロジェクトチームはアジャイル方式のプロジェクトマネジメント手法を用い、フィードバックを継続的に取り込み、成果物をを時間通りに、予算内に、そして大きな問題なしに提供することができました。
なぜDrupalが選ばれたのか
以前よりlondon.gov.ukはDrupalで実装され、ロンドン市の関係者はすでにシステムに精通していました。 さらに、Drupalは次のの理由から選ばれました。
適応性、柔軟性、拡張性:サイトリニューアルは5年間に及ぶ戦略的投資です。 Drupalは、要件が進化する状況に最適です。
アジャイル手法:アジャイル方式はリリース周期が短いのが利点です。 Drupalのモジュラーアーキテクチャー、拡張可能なAPI、自動化されたテストは開発を効率的に進めます。
ユーザビリティとアクセシビリティ:Drupalの柔軟なユーザインターフェイスとコミュニティのアクセシビリティコンプライアンスへの投資は、CMSを優れた選択肢にしました。
経済的に優しい:政府資金を提供する組織として、Drupalのライセンス料がないことは、公的資金を有効に使えることにつながり、革新的なことに投資しやすくなるからです。
オープンソース:オープンソースおよびオープンスタンダードは、プロプライエタリソフトウェアに関連するライセンス料を取り除き、ベンダーを簡単に切り替えたり、必要に応じて他のベンダーにも相談できることを可能にしました。
パフォーマンス:サイトは、特にロンドンの新年花火大会のようなイベントが開催されるときに、急激な大量のトラフィックを処理しなければなりません。この点で実績のあるCMSを要求しました。
統合ポイント:広範な統合により、多数のプロトコルを介して外部システムと連携するDrupalの能力は理想的でした。コミュニティ=セキュリティ:Drupalコミュニティは、1,000,000人以上の開発者で構成され、そのすべてが、プラットフォームを市場で最も安全で安定したプラットフォームにすることに貢献しています。 アップデートとセキュリティパッチが頻繁に公開されるため、Drupalアーキテクチャ内で特定された脆弱性はすばやく効率的に修正されます。
信頼性:Drupalは、政府と公共部門で高い採用水準を保っています。 関係者は、プロジェクト、部門、組織外のコード共有を促進するオープンソースの特徴に共感していました。
“Drupalのようなオープンソースソフトウェアは、革新的な開発の障壁を取り除きます。 これまではライセンス契約により、ITは革新的ではありませんでした。 新しいロンドン市のサイトは、偉大なパートナーと集まり、Drupalの多くの機能を利用せずして生まれなかったと思います。 私たちは、サイトだけでなく、組織においても大きな変化をとげました。” - David Munn, Head of Information Technology at Greater London Authority
プロジェクトについて(ゴール、要望、成果)
新サイト開発の一部として、ロンドン市は2013年に事前調査を発注しました。その調査の中で以下を発見しました。:
- ロンドン市民で、市長や市役所が行なった仕事を認知している、と感じている人は2007年に37%だったものが2011年には20%まで落ち込んでいる
- ロンドン市民の半分は、自分は社会の決定事項に影響していない、と感じている
- サイトトラフィックやエンゲージメントの効果が落ち込んでいる
- サイトは現代のニーズにあっていなくて、人を惹きつけていない
- モバイルやタブレット経由でたくさんのトラフィックがあるものの、サイトはレスポンシブではない
863万人もの多様な意見、背景、ニーズを繋げる、というシンプルな挑戦のために、ロンドン市は、代表的な市民の例を6つのペルソナとして定義するために、別の調査を行いました。
- ビジネスユーザー:ロンドンで起業したい、事業を拡大したいと思う人
- 住民:市の決定に影響を受けるロンドン市の住民
- プロフェッショナル:ロンドンに拠点を置き、成長、発展し、政府の政策に関わる人々
- デリバリーパートナー:ロンドン市の権威者や他の組織に属する人で、ロンドン市に住みながら政策決定を行う人々
- アクティビスト:ジャーナリスト、ブロガーなど、ロンドンでのビジネスや生活について発信する人々
- 求職者:ロンドン市役所で働くことに興味をもっている人
市長の戦略的ゴール
新サイトを開発するにあたり、ユーザーペルソナは大いに役立ちました。開発を進めていくためや、市長の戦略的ゴールを達成するのにとても有効でした。
ユーザーペルソナの調査結果に基づき、ロンドン市は以下の目標を定めました。
- london.gov.ukはロンドン市の情報を検索するための最初のサイトであるべき
- ユーザーは人々の心配事に耳を傾ける、モダンでオープンで惹きつけられるサイトを求めている
- サイト内の各種ツールはロンドン市民が街に関わることや、街を良くするために使われるべきである
技術的な課題
このサイトは長い間存在していて、膨大な量のコンテンツがあったため、新しいサイトを構築してコンテンツを移行する際の技術的課題がありました。詳細は以下の通りです。
- 30以上のコンテンツタイプを統合、移行する
- サイトの運営にあたり、それぞれのコンテンツグループに特定の承認フローが必要だった。グループ内のユーザーは自分の担当セクションのコンテンツのみ投稿できるようにする
- 外部サービスより取得したデータと共にタクソノミーを使用する
- 市長の質問タイム:ビデオのメタデータをサイトに取得して、ダイナミックにユーザーに表示する
- マイエリア:市民にその住んでいる地域の情報を提供する
- 他ツールとの連携:外部サービスから提供される情報をlondon.gov.ukのサイトで提供されているように見せる(スキンをlondon.gov.ukに)
- 採用情報を、フィードを使用してサイトにインポートする
開発:ユーザー中心のデザインを実装
アジャイル開発手法を用いることにより、新しい機能要望が出てくることがあり、機能要望が開発中に変化しました。これによりロンドン市は、ペルソナのニーズを最初に優先することが可能になり、最終的にサイトの満足度が上がりました。
このことによる成果の一つは「マイエリア機能」で、ユーザーフィードバックから生まれた機能で、現在ではサイトの人気機能の一つとなっています。
全く新しいインフォメーションアーキテクチャ
サイトデザインにおけるもっとも大きな課題はコンテンツでした。開発チームはサイトのコンテンツを75%削減し、魅力的なマルチメディアコンテンツに変換することを目指しました。大変な仕事でしたが、Drupalのコンテンツモデリングは全く新しいインフォメーションアーキテクチャを導入することに成功しました。
移行専用モジュールがこの大変な仕事を効率的にするのに役立ちました。開発チームはコンテンツタイプを統合し、既存のフィールドを削除しつつコスト削減をはかり、サイトの長期的な運用性の向上に重点を置きました。
アジャイル開発とアトミックデザイン
開発チームはアジャイルプロジェクトマネジメント手法を使用し、フィードバックを継続的に取り込み、18ヶ月に渡ったプロジェクトの期限を守り、予算上大きな問題もなく進めることができました。
デザインプロセスには、アトミックデザインの原則を採用しました。これは大規模で複雑なWebサイトで一貫したデザインパターンを実現するときに理想的な手法です。ビジュアルデザインを担当する外部企業と協力し、デザインを洗練しながら成果を追求しました。
Drupalの拡張可能なアーキテクチャと包括的な自動テストを使用して、品質を維持し、Drupalのモバイル機能を使用して完全なレスポンシブサイトを構築しました。
成果
新サイトの構築により、完全に市民向けのサイトにシフトできました。以前のサイトは情報の蓄積だけがされたサイトで、ユーザー視点がありませんでした。このプロジェクトにより、市民はほとんどすべての市の意思決定に参加できます。
開発チームは、このサイトをインタラクティブなリソースとして構築しました。このサイトは、ロンドン市に住む863万人の人々が簡単にアクセスでき、その人々にあった情報が閲覧できます。市庁舎、ローカルの人々、MayorWatchの関係者から大成功との評価を得ています。
“前任者と次の市長と総会の行なったサイト改善は、頑強で拡張性の高いプラットフォームに生まれ変わり、そこから彼らの仕事について発信することになります。” - MayorWatch
“11/27日に旧サイトを新サイトに置き換えました。” - Greater London Authority
このサイトはあらゆる観点で大成功ということができます。
サイトで使っているシステムはどこででも見つけることができる
Drupalが素晴らしい点は、その柔軟性と再利用性にあります。 既存のモジュールを使用して、サイトのデータ移行、Webキャスト、タクソノミー、アセンブリペーパー、計画の決定、ジョブフィード、検索セクションを実装することを可能にしました。
コンテンツが理解しやすい
サイトのページ数を18,000ページから3,000ページに削減しました。ユーザー中心のIAを構築し、簡素化しながら、内容をより魅力的にしました。ビデオやスライド写真はサイトに取り入れやすくなり、4人のチームとフォトグラファーの方により管理しやすくなりました。
Drupalの柔軟なセキュリティモデルにより、サイト管理者は詳細なアクセス許可を発行できます。使いやすくなっただけでなく、間接費を大幅に削減することにつながりました。これは実は素晴らしいことで、これまでで一番多くの人数でコンテンツの生成に貢献できるようになったことにつながり、ロンドン市民のためにより良いコンテンツを提供できるようになりました。
エンゲージメントが増加した
市役所全体で、関係者は新サイトの解説を喜びました。より多くの人々がこのサイトを訪問するにつれて、企業や市民との関わりが深まり、このプロジェクトは政治家をハッピーにし、人々に情報を提供する素晴らしい仕事になった、と賞賛されています。”Show and tells”やブログが、必要な情報を探すのに有効な手段となっています。
ウェブキャストセクション
ブログセクション
ユーザーテスト済み
新サイトは、実際のロンドン市民によって12日間テストされました。開発チームがテスト参加者の挙動を確認しながら、デスクトップ、タブレット、スマホなどでテストされました。そのフィードバックは、サイトで最も人気のあるコンテンツの一つである「マイエリア」の開発につながりました。
チームがサイトのスタイル確立に役立ち、新サイトは世界で最も有名な都市の直感的な情報ソースになりました。
すべての面において拡張性がある
新しいインフラにより、以前より多くのトラフィックを処理できるようになりました。サイトへの関与と関心が高まったため、コンテンツを維持するために部門間のデジタルチームが編成され、アジャイルプラクティスを採用し、自動テストを使用してサイトが安全であることを確認しました。
完全に変革を起こした
新サイトは、旧サイトから完全に変革を起こすことに成功しました。プロジェクトに伴い、デジタルボードとデジタルワーキンググループの両方が形成されており、サイトをさらに改善するための将来の計画と資金が用意されています。
最新のコラボレーションスタイルを採用することは、ロンドン市のチーム自体が変革することにつながりました。 彼らは、景気に頼った(予算ありきの)開発スタイルから、戦略的な開発スタイルに移行しました。そして、新サイトの実装はその始まりにすぎません。
終わりに
いかがでしたか?ストック情報の置き場でしかなかった市役所のサイトが、市民参加型のサイトに生まれ変わるプロジェクトとなった事例でした。
ユーザー調査、ペルソナの設定を経て、市民に必要とされるサイトに変貌を遂げたこのプロジェクトでは、ロンドン市側の運営チームにも意識変革を起こし、アジャイル手法を活用することで、より戦略的な視野でサイトを革新させていくきっかけにもなったようです。
弊社の地方自治体との取り組みでは「京都市オープンデータポータルサイト構築(2017年度 グッドデザイン賞受賞)」があります。
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