ANNAI presents "オープンデータ・プラットフォームと公民連携シンポジウム" 開催レポート

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弊社がオープンデータの公開・流通支援をはじめて5年が経ちました。当初はアーバンデータチャレンジをはじめとする、コミュニティベースでのボランティア活動が中心でしたが、今ではたくさんの企業・団体様からオープンデータ公開支援に関する様々なご相談をお受けするようになりました。

そういった流れから、現在はオープンデータ啓発の必要性を感じており、「オープンデータ・プラットフォームと公民連携シンポジウム」を開催することにしました。まずは今回ご協力くださったみなさま、大変ありがとうございました。

参加者数は約100名となり、オープンデータに関する様々な活動に関心の高さが伺えるイベントとなりました。

イベントは、政府や自治体、Civic Tech関係者様だけではなく、メディアやソリューションプロバイダー様の参加も見られました。これを機会に情報交換や新しい交流のきっかけとしていただければありがたいです。

今回参加したくても参加できなかった方のために、スピーカーの方々がどういうお話をされたのか要点をまとめてみました。よろしければご覧ください。

平本 健二(内閣官房 政府CIO上席補佐官 ・ 経済産業省CIO補佐官)

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「官民データ活用推進基本計画」が閣議決定されて以降、今まで以上に利活用の重要性が問われるようになります。地域が持つ課題はそれぞれ異なり、まず地域のニーズを知ることが大事で、データオーナー(自治体)は、ニーズに即したデータを揃えることを出発点とすべき、と話されていました。

ソリューション開発者のフィードバックの中には、「フォーマットがバラバラで使いにくい」「データは揃っているが、今の情報だけでは役に立つアプリを作りたいとは感じない」という声も聞かれており、色々な視点で改善は必要だと平本様は認識されています。

一方データオーナー(自治体)も、データ公開に関連する実務が増えることで日常業務に影響があることを避けたい部分もあるので、その辺りはプラットフォーム側で最適なソリューションを導入・運用していることが望ましい、とのことです。

オープンデータ活用のトレンドは始まったばかりで、Civic Techから生まれたサービスでビジネス的成功を収めているケースはまだ見られない、とのこと。今後長期的な視点でそういうケースが出てくることが期待されています。


現在オープンデータ関係者はCivic Ttech関係者、データオーナー(自治体)、市民と捉えられていますが、今後この動きが加速するにつれて、データのディストリビューター(プラットフォーマー)が存在するようになり、その役割は重要度を増していくそうです。

政府としては、オープンデータに限らず、今後公共サービスにはデジタルプラットフォームを使って色々な手続きを仕組み化、スピードアップしていきたい、とのことでした。

井上 景介(京都市 総合企画局 情報化推進室 統計解析担当)

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京都市では、昨年の秋頃に「京都市オープンデータ推進ガイドライン」を策定し、その後データ活用の取り組みが本格化したそうです。その流れでKYOTO OPEN DATAを開設されました。

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サイトではたくさんのデータを公開しているそうですが、その多くは役所内の各部署から自主的にアップしてもらったデータだそうです。市の関係職員にそれぞれサイトのアカウントを配布し、データ公開を進めておられます。

外部や関係者から「検索しやすい」「プレビュー機能が充実している」など、良いフィードバックをいただいておられるそうです。

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主な公開データとしてはこのようなものがあるそうです。

  • 観光施設情報
  • 地下鉄時刻表
  • 避難所などの位置データ

人気データはこのようなものがあるそうです。

  • 京都観光見もの情報
  • 旅館業法に基づく許可施設一覧
  • 二条城全体図
  • 京都観光総合調査
  • AED設置施設

データ利活用の事例はこのようなものがあるそうです。

  • いしぶみ(石碑)アプリ:1400箇所ほどある石碑を検索・ルート案内するアプリ
  • findfacility:現在地や主要駅から公共施設を探すことができるアプリ
  • 京都大学工学部情報学科 「データ分析結果発表会」

詳しくはこちらをご覧ください。参加者の中から「京都市は他の自治体よりも進んだ取り組みをしている」という声もあがっていました。

紀野 恵(ANNAI株式会社 代表取締役)

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弊社CEO 紀野のセッショントピックは以下の内容でした。

・データプラットフォームのトレンドと現状の問題点
・KYOTO OPEN DATAのソリューション
  DKANとは?
  自治体に向けて
  開発者に向けて
  市民に向けて
・今後の課題

まず現状のデータポータルが求められる機能の説明があり、特に開発者に使ってもらうデータにするにはAPI化が重要であるということでした。

よく使われるckanシステムはデータカタログエンジンであり、ポータルサイトとして機能させるためには別途CMSを横置きし、デザインを似せて擬似的に一つのサイトとして見せなければならず、開発、管理、メンテナンスコストがかかることが問題だと言及がありました。

同じように最近必須の項目になりつつあるデータポータルのデータをLOD化しSPARQLサーバーで検索、取得可能にする機能についてよくあるソリューションについて、データポータルのデータとSPARQLサーバーのデータの関連性がないこと、別のシステムをただ横に設置していることが問題だと話されました。

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その後、KYOTO OPEN DATAを開発するにあたって心がけた、ステークホルダーそれぞれが使いやすく便利になるような機能について説明がありました。DKANの標準機能にはないオリジナルな提案が多く、初めて見られる方が多かったように思います。

特に、DKANのデータセット、データリソースページをそのままRDF化し5つ星オープンデータとして公開することによって、すべてのデータをLOD化し外部へ繋ぎ、データカタログエンジン、CMS、SPARQLサーバーを一体運用できるようになっていることがアピールされました。

最後に今後の課題をそれぞれのステークホルダー別に解説がありました。「データを出すこと、利用できる状態にすること、アプリケーションを開発すること、利用者に役立ててもらうこと、ビジネスにまで発展し持続可能なサービスになること」、それぞれの段階で課題が沢山有ることがよく分かるセッションだったように思います。

セッションスライドは以下からご覧いただけます。

 

 

福島 健一郎(一般社団法人 コード・フォー・カナザワ 代表理事)

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Code for Kanazawaは、NPOの立場からCivic Techを推進しておられます。Civic Techの定義は「市民参加型で社会の課題解決方法を考え、ICTを使って実現する」ということだと捉え活動しているそうです。テクノロジーは人々に力を与えるものだ、ともおっしゃっていました。

15世紀中頃に、グーテンベルクが活版印刷を発明したことにより出版イノベーションが起こりました。それはルターの宗教改革を推進する要因になりましたが、テクノロジーの進化は、人々の思想にも影響を与える道具になり得るということだ、と福島様は考えます。このような流れの現代版をCivictechと捉えておられます。

Code for XXという活動は全国に広がりつつありますが、Code for Kanazawaは、Code for Americaの活動から学び、発足したそうです。活動ポリシーはあくまでも中立・公益の立場で、民間のビジネスエリアとは切り分けて考えているとのこと。非営利とはいっても活動資金は必要だと思っていて、今後ビジネスの可能性も模索していきたいと考えています。

Code for Kanazawaの事例はいくつかありますが、まず紹介されたのがごみ収集情報アプリ、5374.jpです。

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このアプリを使うと、自分が住んでいる街(や新しく引っ越す街)のゴミ捨て方ルールがわかるようになっています。プログラムは無料公開しており、金沢市だけではなく全国でも利用してもらえるようになっています。世界ICTサミットでこの事例は紹介されたそうです。

また、地域で子育てしているママを孤立させないために開発した「のとノットアローン」というアプリも好評とのこと。

「Civic Techは開発者コミュティ」と誤解をされる方もおられますが、Code for Kanazawaメンバーの8割は非エンジニアで、主婦など様々なバックグラウンドを持つ方が参加しているそうです。参加資格は「活動理念に共感する人」。なぜなら、テクノロジーは解決方法の一つに過ぎないと考えているからだそうです。どう解決するかよりも、何が課題なのかをはっきりさせることの方が大事だそうです。

もう一つ大事なのは、課題はメンバーにとって自分ごとかどうか、という視点だと福島さんは考えます。課題を発見した人が開発者に依頼をして誰かにできたアプリを広めてもらう、ということではなく、自分もそのプロジェクトで実際に課題解決を担ってもらうことが重要だと考えておられます。

最後に今後の目標として、シビックテックビジネスが生まれ、収益が上がったビジネスから寄付をもらいながらコミュニティ運営をできれば、というビジョンを語っておられました。

セッションスライドは以下からご覧いただけます。


 

福田 次郎(横浜市 最高情報統括責任者補佐監 総務局しごと改革室担当部長)

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横浜市はこれまでインフラ整備を中心に、都市開発にかなり力を入れてきた街だそうです。今後は「環境未来都市 横浜」という姿を目指して活動していく、というビジョンを語っておられました。横浜市は「法人税収入が少ない都市」だと認識されていて、そこを課題だと感じているとのこと。今後が企業誘致などにも力を入れていきたいとのことです。

テクノロジーを都市運営にどう活かせるのか、という視点では「オープンイノベーション」という大きい視点で物事を考え、活動しているそうです。オープンデータに関する取り組みはその中の一つ、という位置付けとのこと。

今年3月に「横浜市官民データ活用推進基本条例」が成立し、それに伴い、オープンデータ推進本部設立を設立されました。

これまで市としても行政主体のデータオープン化を行い、そこから新規ビジネスが生まれることを期待していましたが、良い結果は得られなかったそうです。その理由は、行政側から提供されるデータはビジネスで求められるデータになっていなかったから、などが考えられるとのこと。具体的には、

自治体のデータは過去のもの:これから求められるのはリアルタイムデータ、未来予測
テキストデータ:これから求められるのは計測データ・位置データ
集計結果:これから求められるのは匿名化された一人一人のデータ

こういったものを可視化、解析することで新しいビジネスが生まれていくいがこれからの社会だと考えておられます。

その意味で、今後の大きな戦略としてIoTとデータサイエンスを駆使してより高品質なデータ集計と未来予想ができる仕組みを構築することに取り組み、あらゆる現場での新規ビジネスの創出を支援していきたいというビジョンをお持ちです。

そのために各所で関連コミュニティ支援活動が立ち上がっていますので、興味のある方はぜひ覗いてみてください、とおっしゃっていました。

懇親会

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その後、希望者のみ懇親会へと移動し、親睦を深めました。政府・自治体、NPO、ソリューションプロバイダー、メディアなど、立場に関係なくオープンデータのこれからに関し活発に意見交換されている様子が伺え、主催者としても一安心いたしました。

これからもこのような機会を通じて関係者の皆様がより良い社会に向けて活動されることをサポートできればと思います。今後ともどうぞよろしくお願い致します。

Special Thanks To : 

日本マイクロソフト株式会社 様(会場提供)

京都市 様(後援)

一般社団法人 オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構 様(後援)

Code for Kanazawa 様(協力)

Code for Kyoto 様(協力)

NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボ 様(協力)