ANNAIマガジン
大画面に映るドリスとプレゼンテーションのスライド
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今回の Driesnote では、主に Drupal 10 についてのアップデートおよび Drupal 11 が目指す方向性についての 2 点が語られました。特に Drupal 11 に関しては、Drupal のターゲットユーザーの拡大という大変エキサイティングなビジョンが示されました。

Drupal 10 についてのアップデート

Drupal 10 のリリース候補日は 2022 年 6 月・8 月・12 月の 3 つが挙げられていましたが、Driesnote では 12 月への延期が伝えられました。

CKEditor 5

リリース予定日延期の主な理由は、CKEditor 5 の導入に係る変更のために時間が必要であるためとのことでした。CKEditor 5 はそれまでのバージョンの完全なリライトであるため、アップグレードパスや後方互換性が提供されておらず、そのため Drupal コミュニティー(特に Acquia)は CKEditor の開発元である CKSource と密接に協力してアップグレードパスを鋭意開発中とのことでした。

Drupal 9 EOL

Drupal 10 のリリースに伴い、Drupal 9 が 2023 年 11 月 7 日に EOL(サポート終了)を迎えます。これにより、Drupal 10 へのアップグレードには 11 ヶ月の猶予が与えられることになります。2022 年 4 月現在、全ての contrib モジュールの 93% はアップグレードに伴い非推奨となる API に対する自動変換に対応しているとのことです。EOL までに更にカバレージが増えることが期待されるため、10 へのアップグレードは Drupal 史上最も簡単なものになると見込まれる、というのがドリスの見解です(なお、この発言の際に彼がおどけて笑っていたことにも敢えて言及しておきます(笑))。各プロジェクトの自動変換への対応状況はこちらのリンクから確認できます(https://dev.acquia.com/drupal10/deprecation_status/projects

Drupal 10 のリリースと Drupal 9 の EOL を表すタイムライン

(図:ドリスの Driesnote プレゼンテーションより転載)

Olivero

新しい Drupal のフロントエンドテーマである Olivero の安定版がリリースされました。Olivero は今までのテーマのなかで最もアクセシビリティの高いテーマで、Drupal 10 のデフォルトテーマとなります。現在のデフォルトテーマである Bartik が 11 年の間利用されてきたことを考慮すると、これは大きな変化です。なお、Olivero について詳しく知りたい方はこちらの記事をご参照ください。

Olivero が安定版に達したことを伝える画像

(画像:ドリスの Driesnote プレゼンテーションより転載)

Claro

新しい管理者向けテーマである Claro も、今回の Drupalcon 開催中に安定版がリリースされました。コアコミッターの 1 人である webchick が Claro をリリースする「歴史的瞬間」を捉えたコミカルな写真が公開され、聴衆は笑顔で大きな拍手を贈っていました。

ホテルの一角にてコミッター webchick が大げさな動作で Claro の変更をコミットしている風景

(写真:ドリスの Driesnote プレゼンテーションより転載)

Starterkit

Starterkit はカスタムテーマを作成する際に、その時点で最新のデフォルトを元にテーマを生成するツールです。現状、コアのテーマを元にカスタムテーマを作成する際はサブテーマを作成しますが、これはランタイムのコアテーマへの依存を意味し、コアのアップデートに伴いカスタムテーマに不具合が生じる危険性を孕んでいます。Starterkit はコアテーマのクローンまたはフォーク的なものを生成することで、この依存を解消します。

自動アップデート機能

コミュニティーによる要望が一番多い自動アップデート機能の開発は順調に進んでいます。現在は contrib モジュールとして開発されている Autmatic Updates モジュールは、Drupal 10 のマイナーアップデートでコアに追加される予定です。

Drupal 11: 「Drupal は野心的なサイトビルダーのためのツール」

Driesnote では、いつものように今後の Drupal の方向性が語られました。大変興味深かったのは、Drupal の原点への回帰についての具体的なロードマップが示されたことでした。この原点とは、ドリスが 2007 年の時点で掲げた「中間業者の除外 (‘eliminating middlemen’)」という目標と共通するものがあります。ここでいう「中間業者」とは開発者、ウェブマスター、およびデザイナーを指します。ドリスが Drupal に求めたのは、特殊な知識や技能がなくても、手軽に魅力的なウェブサイトの構築を可能にすることでした。

しかし、バージョン 6 以降の Drupal はエンタープライズ向けの CMS および開発用フレームワークへと変化していき、小規模なウェブサイト作成のためのツールとしては不向きになっていきました。特に Drupal 8 以降は Composer の利用や Configuration Management の導入などにより、開発の知識が無い場合はモジュールのインストールやサイトのメンテナンスすら難しいのが実情です。

今回の Driesnote で示された Drupal 11 の方向性は「野心的なサイトビルダーのためのツール(‘Drupal is for ambitious site builders’)」というものでした。

人とロボットが夜景を臨む高台に立つイメージ

(イメージ:ドリスのブログポストより転載

ドリスによる「野心的なサイトビルダー」の定義は:

  • ほとんどの設定を UI を通して行う
  • 多少のカスタムコードを書く

というものです。

野心的なサイトビルダーの定義を示したチャート

(図:ドリスのブログポストより転載

現在それぞれのイニシアチブのもと開発・準備が進む以下の機能により、サイトビルダーでも容易にサイトのアップデートや拡張が行えるようになります:

  • 自動アップデート機能
  • drupal.org 上でモジュールの情報をより解りやすく表示するプロジェクトブラウザー
  • サイトの UI からモジュールをインストール可能にするパッケージマネージャー
  • モジュールのインストール直後に利用方法を理解するのを助けるスターターテンプレート

野心的なサイトビルダーをエンパワーする機能の一覧

(イメージ:ドリスの Driesnote プレゼンテーションより転載)

これらの変更は、Drupal がその原点に戻ることを可能にするとドリスは述べています。

この方針はエンタープライズが求める Drupal の利便性を保持したまま Drupal 利用者の裾野を広げることを意味します。一旦はエンタープライズ向けの開発者用フレームワークに進化した Drupal が再び一般ユーザーをエンパワーする CMS となることで、 今後 Drupal がより多くのユーザーベースを獲得することが予想され、人々のオープンウェブへの参加をより容易にすることを可能にすることが期待されます。

さいごに

新たな機能やテーマにより、さらにパワフルな CMS になった Drupal 10 のリリースは今から待ち遠しいものです。

Drupal 11 の方針転換に伴う Drupal のユーザー増加や、それに伴って新たにコミュニティーメンバーが増えることもまた楽しみです。

同時に ANNAI としては、この方針転換によってセキュリティーアップデートや管理が不能な Drupal サイトが増える可能性に懸念を抱いています。これは実際に我々が KAIZEN のシステム診断を通じて多くのサイトで目にしてきた問題でもあります。

定期的なバックアップの取得はもちろんのこと、Git などのバージョン管理システムの利用や、Configuration Management を利用した設定の管理など、ソフトウェア開発や Drupal サイト管理の基礎について Drupal コミュニティーが今まで以上に啓蒙に力を入れていくことで、正しく構築・管理されていないサイトによる Drupal の評判の低下を防ぐよう努力していくべきだと ANNAI は考えます。

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Driesnote の録画はこちらで視聴できます。また、Driesnote のメイントピックのひとつ ‘Drupal is for ambitious site builders’ については、ドリスがこちらのポストにまとめています

 
 
 
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この記事を書いた人: Mori Sugimoto

2006 年から欧米の大規模 Drupal 案件で開発・アーキテクチャーやコンサルティングなどを担当。コア・拡張モジュールの翻訳、また国内外でのミートアップのオーガナイズや Drupalcon での登壇およびボランティアなど積極的にコミュニティに参加。2008 年より Drupal Security Team コーディネーターを務める。オランダ在住。

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