Drupal 8 海外事例:ADAA.ORG
The Anxiety and Depression Association of America (ADAA)は、不安症、うつ病、強迫性障害の予防や治療、心的外傷後ストレス障害に関する教育訓練および研究を行っている国際的なNPO団体です。
ADAA.ORGのウェブサイトは、コミュニケーションハブとして団体の活動をサポートしています。ユーザーは自らや、知人の症状についての重要な情報をすぐに検索する事ができます。加えてこのサイトはメンタルヘルスの専門家とユーザーを繋ぐ窓口として、専門的なアドバイスや受診に関する情報を提供しています。また、サイト上では団体の定例会議のプロモーションも行っています。
ADAAは団体のブランドイメージを時代に合った形にする必要がありました。そのため、ユーザーエクスペリエンスとセキュリティーを改善し、サイト全体の効率化を実施する必要がありました。
元々、ADAA.ORGはDrupal 6で構築されていたため、アップグレードを行う必要がありました。2015年末時点では、ソフトウエアとして成熟したDrupal 7を使用するという選択肢と、数週間前にオフィシャルリリースされたばかりのDrupal 8を使用するという二つの選択肢がありました。ADAAチームはより冒険的な方の選択肢を選びました。
なぜDrupalを選んだのか?
Drupal 6は2008年にリリースされました。Drupal 6は優れたプラットフォームでありましたが、その後、ウェブの急激な進化に伴い、従来のテクノロジーでは対応できない要求が増えてきました。
DrupalコミュニティーはDrupalをより速く、管理者がよりカスタマイズし易いように200以上の新しい機能を追加しました。そして、広範囲に渡りアクセシビリティに改善が行われたDrupal 8がリリースされました。
Drupal 8はADAA.ORGのような組織に最適でした。Drupal 8を使用する事により、彼らの複雑な要求を効率よく満たす事ができました。さらに、最近のユーザーの求める要望に対して、低コストで応える事ができました。対照的にWordPressやJoomlaなどのシステムは、このレベルの機能を扱うには向いていないと言えます。
ADAAの旧サイトはDrupal 6で構築されていました。そのため、次はDrupal 7へのアップグレードを検討しながらも、開発チームは既存のウェブ資産とコンテンツを評価を行っていました。しかし、サイトのデザインや要求される仕様を検討した結果、Drupal 8によるリニューアルがベストな選択であるという結論に至りました。
開発は2015年の11月初旬に始まり、2016年の2月のリリースを目標に開始しました。
このプロジェクトについて
元のサイトはかなりの数の独自コンテンツを保有していました。それらの大部分はテキスト形式のみで、コンテンツ見せ方のバリエーションは皆無でした。これらのテキストをより効果的に見せるための、画像やビデオはほとんど使用されていない状況でした。
主なゴールとしては各コンテンツの見せ方を改善し、各セクションの内容に沿ったものする事です。そして、一番大切な情報を強調することです。これは、豊富なスタイルやメディア要素を持った最新のタイポグラフィを利用する事で実現しました。また、ADAA.orgはモバイルデバイスに最適化されていませんでした。デザインチームはあらゆるデバイスにおける、操作性の向上のためレスポンシブ対応に重点を置きました。
最初の段階はサイト全体のワイヤーフレームの設計でした。これはデザインフェーズに、シカゴでウェブサイトのデザインと開発を行っているVTLチームにより行われました。VTLチームはデスクトップとモバイル向けのトップページとサブページのモックアップのデザインを担当しました。
私たちは開発プロセスの初期段階から必ずモバイル対応への対応を考慮しています。昨今、サイトへのトラフィックの大半を占める、モバイルやタブレットへの対応は最も重要です。
サイトのデザインと機能の確定後、旧サイトの機能に影響を及ぼさないように、開発サーバー上でDrupal 8のコーディングが開始されました。
もう一つの機能要件としては、サイト管理者がコンテンツを手軽に更新できることでした。サイト上に公開されるコンテンツが複雑な場合には、時間が経つにつれて更新されるメディアと構造化されたデータが混在してくるため、定期的なメンテナンスが必要になります。これはサイト管理者にとって大きな負担になります。
幸いにも、Drupal 8は殆どのコンテンツタイプにおいて管理者の手間を大幅に削減する、ダイレクト編集機能をサポートしています。それに加え、Drupal 8がサポートするモダンなテンプレートシステム活かして、VTLの開発チームはカスタムコンテンツタイプへの変更を迅速で安全に実装する事ができました。
Drupal 8におけるこれらの改善点を利用し、コンテンツの内容を効率的かつ手軽に編集できるように設計された、カスタムモジュールを組み込むことができました。VTLチームはADAAのスタッフがDrupal 8の機能を使いこなし、サイトのメンテナンスやアップデートが行えるようになるまで、継続的なフォローアップサポート行いました。
私たちは開発プロセスをJIRAで管理し、毎週、関係者に現在の開発の状況を知らせる報告を行いました。これは、全ての関係者(とりわけ技術者ではない人々)が開発のスピードについてきてもらうのにとても有効でした。
ADAA.ORGの平均ユニークユーザー数は2015年の10月時点で約50万ユーザーでした。その後、2016年の10月にユーザー数は2倍近くまで増加しました。このサイトは完全にレスポンシブで、モバイルデバイスからのアクセスは60%を占めます。
今現在も機能の強化や調整に関するテストは行われていて、大抵変更は一晩でデプロイされます。団体はDrupal 8の改良点を利用して、要求に応じた変更を迅速に行えるようになりました。例えば、非常に短時間で特定のページに広告用バナーを掲載する事ができます。
終わりに
この事例では、Drupal 6で運営されているサイトをDrupal 7を飛び越えて、Drupal 8に移行しました。今回のようにDrupal 6からの移行を考えている方だけではなく、新規にDrupalによるサイト構築される方もDrupal 7とDrupal 8のどちらを導入すべきかは慎重に検討する必要があります。
Drupal 8は2015年の11月19日に正式版がリリースされました。2017年の3月現在ではまだ、Drupal 7で利用可能なモジュールの多くがまだDrupal 8に対応していません。そのため、複雑な要求を満たすためには、それなりのコストや技術力が必要になるかもしれません。今後、1,2年をかけてモジュールが充実していくと思われます。
(参考:開発に役立つDrupal 8の主要モジュール一覧)
では、利用可能なモジュールが出揃うまではDrupal 8の導入を待つべきなのでしょうか?ANNAIではお客様の要求に合わせてDrupal 8の積極的な導入も行っています。
一例としてはDrupal 8では多言語機能が大幅に改善されています。そのため、多言語対応を希望されるお客様にはDrupal 8を積極的に導入しています。NTTコミュニケーションズ IoTプラットフォームと、今ご覧になっている当サイトはDrupal 8による多言語機能を利用しています。
Drupal 8で多言語化を実現
NTTコミュニケーションズ IoTプラットフォーム
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