Jグランツとは
2019 年 12 月に運用を開始した経済産業省のJグランツは、事業者の補助金への申請および、補助金事務局での申請や事業情報の管理を効率化するためのウェブアプリケーションです。このプロジェクトはアジャイル型開発手法を用いて ANNAI が経済産業省と密接に協力して開発を行いました。
(なお弊社開発のJグランツは、雇用調整助成金のインフラおよびシステムから完全に独立したサービスです。また、持続化給付金とは異なる契約・予算に基づくプロジェクトであり、サービスデザイン推進協議会は関与しておらず、同協議会の下請け企業等とも一切関係ありません)
アジャイル開発手法を用いた経緯、その効果については別のポストで詳述しています。また、オーストラリアにてオンラインで開催されたイベント DrupalGov 2020 における弊社の jGrants についての講演は次のリンクからご覧になれます:https://www.youtube.com/watch?v=6eWTN37B0TQ
Drupal 8 で構築されたJグランツの機能概要
Jグランツは補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「適正化法」)に基づき、システム上での補助金情報の管理および、補助金事業に関わる各種手続きを管理することを目的としたシステムです。
Jグランツに含まれる機能の概要は以下の通りです:
- 補助金情報の掲載
- 補助金に対する申請の受付
- 補助金ごとへの申請の採択・通知担当の割当
- 採択後の各種手続き (報告のやり取り、経費精算など)
- 申請や各種手続き発生に伴う通知の自動化
- 申請書の一時保存機能
- gBizID(https://gbiz-id.go.jp/)との連携
また、補助金事業に関わる各種手続きは、原則として適正化法およびそのほかの法規、規定に基づき行われるため、Jグランツは事務局側も事業者側もそれらのルールに則った正しいプロセスを経てのみ手続きが行えるようにデザインされています。これにより、入力されたデータの再チェックや目視確認などの事務処理を大幅に低減することができます。
以下に、これらの機能を実現するために開発した機能の概要を説明します。
事業者と事務局のアクセスコントロール
補助金は省庁だけではなく、省庁から直接委託を受けた下部組織や外郭団体、さらにはそこから再委託を受けた組織など様々な機関・組織により運用・管理されます。そして当然ながら事務局のユーザーは、自分が担当する補助金に対してのみ管理・採決権限を持つ必要があります。
また補助金に申請する事業者も、単独での申請場合もあれば、複数の事業者が合同で単一の事業をもとに申請するケースがあります。さらに、その事業者が複数の異なる補助金に申請することも考えられます。このような複雑なケースに対応するため、Drupal コアのロール・権限管理機能に加え、拡張モジュールとカスタムコードを組み合わせることで要件を満たしています。
また、事業者・事務局の観点からのアクセス制御の他に、事業の状態などによって動的に入力制限を行うことで、ユーザーが意識せずに適正化法に沿った手続きが進められるような、高度なカスタマイズも行っています。
カスタムワークフロー
前述の通り、Jグランツは申請書の状態をもとに、適正化法などに基づいたプロセスで手続きが行える仕組みになっています。申請と事業にはそれぞれ段階があります。たとえば補助金への申請や、事業の各種手続きでは「申請済み」「確認中」そのほかがあり、事業では「交付申請中」「事業実施中」「事業完了」およびそのほかのステータスが存在します。ここでは日本のビジネス習慣に合わせて、下の図のように複数人が順に承認する(紙で係長→課長→部長とハンコを押していくような)機能を実現しました。
なお、このワークフローをデザインするにおいては、柔軟性の高さを確保することが重要な課題でした。これは事務局ごとにプロセスが異なるためです。例えば、ある補助金では承認者が 1 人ですが、他の補助金では 8 人必要な場合もあります。
また、承認者(の集合)も、補助金単位で全て同じ場合もあれば、特定の事業者とのやり取りだけ担当者が異なる場合もあります。
このように、世の中に数千ある補助金事務局でそれぞれ異なる運用が必要になるため、設定次第でどんな運用でも利用できる柔軟なワークフローを実現しました。
申請書の一時保存機能
事業の申請の際には非常に多くの項目に記入する必要があります。Drupal のデフォルトでは、必須項目を記入しないと下書きとしての保存ができませんが、必須項目数の多さから、下書き保存できるに至るまでにも相応の時間を要します。また、長大なフォームから必須項目だけを見つけるのも一苦労です。この問題に対応するため、フォームの一時保存機能を追加しました。
drupal.org にはこの機能を実現する拡張モジュールが存在しますが、これは Web Storage を利用するものでした。Jグランツのユースケースでは、事業者が事務局に赴いて、共有の端末を利用して申請書を作成するというシナリオも想定されるため、クライアントに頼る一時保存機能では利便性が低いこと(事務局で下書きを作成して、会社に戻って提出を行うというシナリオに対応できない)、またセキュリティーの観点からもこのモジュールを利用することを避け、独自の一時保存機能を開発しました。
GBizID との連携
GBizID (https://gbiz-id.go.jp/top/) は日本政府の提供する認証基盤で、一組の ID とパスワードで様々な行政サービスを利用することを可能にします。事業者は GBizID* を利用してJグランツへログインすることができます。また、GBizID 作成時に登録した事業者の基本情報がJグランツでも利用できるため、異なる補助金へ申請する度に同じ基本情報を記入する手間が省けます。
*Jグランツの利用には GBizID プライムが必要になります
まとめ
Jグランツは Drupal 8 を用いた経済産業省の補助金管理・申請システムで、拡張モジュールの活用や多くのカスタマイズにより、複雑なアクセス管理、申請プロセスのワークフロー、そして業務システムに必須の監査証跡を備えています。数千の補助金事業所のそれぞれ異なるプロセスの共通点をもとに、できるだけシンプルかつ汎用性の高いシステムに仕上げられました。2019 年 12 月のローンチから一度も深刻なトラブルに見舞われることなく、多数の申請を受け付け・処理している信頼性の高いシステムです。
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