(LocalGov Drupal はイギリスの地方自治体ウェブサイトの構築に特化した Drupal ディストリビューションです)
過去 10 年間、多くの地方自治体がウェブサイトを構築するために Drupal プラットフォームを採用してきました。Drupal で構築された地方行政ウェブサイトはおよそ 72 にのぼり、そのほとんどは Drupal 7 と 9 を利用しています。しかし、それぞれの地方自治体が異なる開発会社を通して独自のブランドとスタイルを確立してきたため、サイト間に共通性がないことがメンテナンス上の問題となっています。
LocalGov Drupal プロジェクトは 1) 市民への良いデジタル体験の提供 2) サービスの改善 3) 予算節約 の 3 点を可能にする公共財となることで上記の問題を解決することを目指しています。たとえばサイトの基本機能やメニュー構成の部分を無料で提供し、各地方自治体の予算の有効活用を可能にします。LocalGov Drupal を使用すると、新しい地方行政ウェブサイトの構築コストを最大 80% 削減できると推定されています(この比率は自治体が追加開発したい機能の数に依存します)。この節約は、必要最低限のコンテンツのみの公開を行う小規模自治体にとって特に重要だと思われます。
では、LocalGov Drupal を試すにはどうしたら良いのでしょう?テスト用プラットフォームへのアクセスは?無料で使用できる標準機能は?
このポストでは、LocalGov Drupal プラットフォームの概要、セットアッププロセス、特徴、機能、そして自分で追加する必要がある要素について説明します。
セットアップ
コードベースは GitHub から入手可能です。ローカル環境にインストールするためにコードベースをダウンロードするのは簡単です。以下のコマンドを実行してください:
$ composer create-project localgovdrupal/localgov-project MY_COUNCIL_NAME
(訳注:MY_COUNCIL_NAME を適切な自治体名に変えて下さい)
LocalGov Drupal リポジトリの標準として、Lando を使用したローカル開発環境の構築がサポートされていますが、以下の例では DDEV を使用しました。
インストール時、セットアップ・アシスタントに表示される選択肢から「LocalGov Drupal」インストールプロファイルを選んでください。その他の設定も含めほんの数分で新しい自治体ウェブサイトを立ち上げることができます。
最初にすること
今回初めて Drupal に触れる方は、上のページからリンクされているデフォルトのユーザーガイドを読もうと思われるかもしれませんが、ガイドには膨大な量のコンテンツが含まれているため、少し圧倒されるかもしれません。
自治体ウェブサイトの主な目的は、市民向けの情報を公開し、オンラインセルフサービス機能を利用してもらうことで効率よい情報の活用を促し、受信メールや電話の量を削減することです。
一般的なサイトの情報アーキテクチャーは、様々なスタイルで提供されるサービスコンテンツのグループとして構成されています。
LocalGov ディストリビューションのインストール直後に、地方自治体サイト向けの 3 種類のコンテンツタイプが利用可能になります。付属のモジュールを有効にすることで、他のコンテンツタイプを追加することも可能です。
サービスランディングページ
地方自治体のサイト上では通常、広報、納税、駐車場、計画認可、リサイクル、議員、コミュニティーニュースなどのサービスに関する共通のトピックごとにコンテンツが分類されています。
これらの「サービス」は活動の内容や情報の種類に基づいて色分けされ、タイトルと概要が添えられた上で、それぞれが専用のサービスページにリンクされます。
グリッド形式でランディングページに表示されるサービスページへのリンクに加え、「共通タスク」という概念のもと、活動の内容や情報を表すボタンが上部に表示されます。これは種類に基づいて色分けされており、別のサイトへのサービスやダウンロード可能なファイルへの直接の URL へリンクさせることができます。
サービスページ
サイトのコンテンツの大部分はサービスページに配置されており、これらはタイトル、要約、本文という基本的な構成を持っています。また、ページに自由にコンポーネントを追加する機能も備えています。
ボタン
サービスページのトップは、サービスのランディングページと同じように色分けされたタスクボタンを設置することができます。このボタンは、他のページやダウンロードリンクを埋め込んだり、他のサイト上の申請書プロセスなどにリンクさせることができます。
親ページを手動で指定することで、パンくずリストを構築することができます。ただし、将来的にコンテンツを移動する際には注意が必要です。また、同じサービスページをサービスサブランディングページの子としてリンクしなければならない点は、使いにくく感じられるかもしれません。
関連コンテンツ
同様に、関連コンテンツの追加には 2 つのオプションが用意されています。これらはトピックとリンクです。デフォルトのテーマでは、どちらのタイプも見出しで区切られた同じ外観を持っており、メインコンテンツの右側に表示されます。
登録簿
情報の一覧表示は、大量の情報のブラウジング、検索、フィルタリングを可能にするうえで取られる一般的な方法です。「登録簿チャンネル」は検索およびカテゴリーを使ったフィルター向けの標準レイアウトで、事前に設定されたランディングページと共に、ブラウズ可能な会場の一覧を提供します。
オプションで表示可能な地図は、登録簿チャンネルの上部にあるすべての場所、またはフィルターされた場所を結果に表示します。場所は、登録簿の最上位に登録することはもちろん、異なるカテゴリー(例:学校、コミュニティセンター、投票所、特別支援教育)など、他の登録簿チャンネルに追加することも可能です。
登録簿チャンネルは、サービスのコンテンツアーキテクチャー配下にまとめることができるため、訪問者はサイト閲覧中の適切なタイミングで求めているコンテンツを見つけることができます。
より高度なニーズに対応するため、他の種類のコンテンツを登録簿チャンネルで整理することも可能です。これは、フォームに特定のデータフィールドが必要なときや、検索結果を絞り込むためのフィルターが必要なケースへの対応を可能にします。
登録簿に収集された豊富な情報は、Open Referralと呼ばれるオープンかつ構造化された方法で共有することが可能です。これは、ユーザーが必要な情報をより迅速かつ容易に得られることを意味し、また地域社会とサービスの融合に役立ちます。ただし現在のところ、他のサイトから LocalGov Drupal に Open Referral のコンテンツを取り込むためのインポーターはありません。
ガイド
より多くの情報を、より多くの市民が理解し、活用しやすいかたちで提供するために、情報ガイドという概念が用意されています。
ガイドの「概要」は関連コンテンツ閲覧の開始点として機能します。また各ガイドページの下部には「次へ」と「前へ」のナビゲーションが付属しています。デフォルトでは、ガイドの各章はページの上部に表示され、これを利用することで目的のセクションにすばやく移動できます。
ガイドページは基本的な書式のテキストのみ利用可能で、ページレイアウトやコンテンツを埋め込むことはできません。これにより、読者にとってページを分かりやすく保つことができます。
サブサイト
「サブサイト」というコンテンツタイプを使用すると、独自のルック&フィールと、独自の内部ナビゲーションを持つサイトを作成し、よりユニークなページを作成することができます。例えば、多くのサービスやコンテンツと併せて、地方自治体の画像やブランディングを表示するホームページなどを作成できます。
またミニキャンペーンサイトの迅速な作成も、このコンテンツタイプの使用例です。サブサイトの内部ナビゲーションは、デフォルトで右下に表示され、編集者が作成したサブページにリンクしています。リンクの表示順は、サブサイト概要の編集フォームで管理することが可能です。
部署やサービスのために視覚的に興味深いホームページを作成することは、サブサイト概要ページビルダーで実現できます。提供されたツールを使用して、テキスト、画像、ファクトボックス、引用などを列のレイアウトの選択にわたってドロップすることができます。
開発者はカラーテーマを定義することもでき、コンテンツ作成者が新しいサブサイト概要ページを作成する際に選択することができます。
サブサイトのページに配置できるページコンポーネントは、開発者が作成した追加のカスタムモジュールによって拡張可能です。
サブサイトには、すべてのサブサイトページにリンクするネストされたナビゲーションメニューがオプションで用意されています。
コンテンツの承認管理
編集者以外の人が作成したコンテンツは、デフォルトの編集ワークフローを通過します。このワークフローでは、編集者がレビューするためにコンテンツのドラフトを送信します。この時点で、編集者のロールを持つユーザーは、承認ダッシュボードにアクセスし、コンテンツのステータスを「公開」に移行する前にコンテンツの正確さを確認することができます。
このワークフローは必要に応じて、異なる状態や関係者を追加するなどの拡張が可能です。例えば、公開前にコンテンツがコンプライアンス状況をチェックするための法的状態を追加することができます。
レビュー
何千ページもの情報がある場合、時間の経過とともにコンテンツが古くなったり、不正確になったりする可能性があります。コンテンツがいつ公開され、チームの責任者によっていつレビューされたかの証跡を保持しておくことは、サイトユーザーが最新の情報を得ることを保証し、苦情を未然に防ぐことにつながります。
デモ
上で挙げた情報が多すぎると感じる場合は、実際に試して確認することが可能です。重要なのは、プラットフォームで利用可能な機能の数に圧倒されることなく、あなたのニーズに最も適した機能を見つけることです。
簡単な方法としては、https://demo.localgovdrupal.org/ にあるデモサイトを閲覧し、デフォルトのテーマを使用してすぐに構築できるページの種類を体験することができます。ただし、デモサイトではコンテンツ編集ができないため、機能が制限されていることに注意してください。
もしあなたが LocalGov Drupal のサンドボックス版を試したい場合、Ixis は30日間環境を提供することができます。
プロジェクトへの支援
どのようなオープンソースプロジェクトにも当てはまりますが、より多くのユーザーが参加すればするほど、皆にとってより良い製品になります。これは LocalGov Drupal も例外ではありません。現在、このプロジェクトは自治体が機能追加のための資金をアドホックで拠出し、その機能は GitHub にホストされているプロジェクトリポジトリに格納されます。
開発会社によって構築されたサイトが地方自治体に納品された場合、同自治体が新しい機能やアップデートの恩恵を受けることを期待するならば、LocalGov Drupal プロジェクトの継続的な資金調達について考慮する必要があります。もし、自治体内に技術スタッフがいる場合は、自治体がスポンサーとなり、そのスタッフが時間を割いてオープンソースプロジェクトに参加することが望まれます。
公共サービスのためのローカルデジタル宣言の原則は、LocalGov Drupal も支持する素晴らしい点があります:
- プロジェクトチームの全メンバーがデジタルな働き方を評価し、奨励し、期待するオープンな文化
- オープンに仕事をすること
- 計画や経験を共有すること
- 他の組織と共同で作業すること
- 優れた実践を開発し、再利用すること
- オープンソースライセンスのもとで作品を公開すること
また、プロジェクトサイトで公開されているプラットフォームに関する覚書でも、作業の共有化に関するコミットメントを改めて表明しています。
プロジェクトサイトで公開されているプラットフォームに関する覚書でも、成果物の共有についてのコミットメントが強調されています。
製品ロードマップ
プロジェクトの将来について、様々な疑問を持たれるかもしれません。たとえば次に実装される機能は?プロジェクトの方向性は誰が決める?また、プロジェクトの方向性を決めるのは誰?地方自治体が出資するこのプロジェクトの将来は安泰なの?など。
将来性という意味においては、LocalGov Drupal は単に Drupal がベースのシステムであるため、地方自治体が将来的に LocalGov Drupal で構築したサイトを他の CMS に移設する必要性が生じることはほとんど無いと言って良いでしょう。
有能な Drupal 開発者や開発会社であれば、サイトの拡張機能の開発やメンテナンス、またセキュリティサポートを継続的に提供できるでしょう。
機能面では、多くの自治体が内部の開発者や開発会社と協力して、様々な新機能のリリースを続けています。例えばフォームの作成、マイクロサイト、HTML 化された出版物の配布、Solr による高度な検索などがそれに含まれます。
LocalGov Drupal コミュニティーは機能のロードマップを管理し、ワーキンググループがその実現に責任を持っています。
ロードマップは、複数の地方自治体と開発会社の代表者を含む製品グループのメンバーによって設定されています。プロジェクトガバナンスの構成は、LocalGov Drupal プロジェクトサイトに掲載されており、ビデオコールを用いたグループミーティングと LocalGov Drupal のSlack のオープンチャンネルのコミュニティーを通じてファシリテートされています。
より早く、より安く、より良く
LocalGov Drupal の目的は、常に地方自治体がより早く、より安く、より良いウェブサイトを構築できるようにすることです。自治体や政府機関がその使用と貢献を選択し続ける限り、その目的は達成されていくでしょう。
LocalGov Drupal プラットフォームの使用を選択するのは個々のビジネス上の決定であり、これはプラットフォームがどのようにサイトの要件を満たすことができるかを理解して行われるべきです。当然のことながら、我々は予算の節約や「車輪の再発明 」のリスク軽減を実現するこのプラットフォームを強く支持しています。我々はこの記事がプラットフォームを理解するうえで役立つことを願っています。また、個々の要件や質問に対し回答することで、LocalGov Drupal プラットフォームをより良く理解する手助けになれればと願っています。
LocalGov Drupal についてより詳しく知りたい方は、私たちのチームと連絡を取ってください。
関連コンテンツ
Drupal 初心者講座バックナンバー
- Drupal 9/10 初心者講座
- 第 1 回 歴史に見る Drupal の DNA
- 第 2 回 Drupal はフレームワークか?CMS か?他の CMS との比較
- 第 3 回 Drupal の特徴
- 第 4 回 Drupal 9 / 10 のインストール (1)
- 第 5 回 Drupal 9 / 10 のインストール (2)
- 第 6 回 Drupal にコンテンツを投稿してみる
- 第 7 回 Drupal のボキャブラリとタクソノミーの使い方
- 第 8 回 コンテンツ管理における Drupal と他の CMS との比較
- 第 9 回 Drupal のブロックシステム
- 第 10 回 Drupal の標準クエリビルダー Views の使い方
- 第 11 回 Drupal と他の CMS のクエリビルダー機能を比較
- 第 12 回 Drupal の多言語機能と他の CMS やサービスとの比較
- 第 13 回 Drupal の権限設定と WordPress や Movable Type との比較
- 第 14 回 Drupal のテーマシステムについて
- 第 15 回 Drupal の拡張モジュールの選定と使い方
- 第 16 回 Drupal をもっと知りたい方に向けた各種情報