先日お伝えした通り、ANNAI は 2020 年 11 月 5 日に開催された DrupalGov 2020 においてJグランツについての講演を行いました(https://www.youtube.com/watch?v=6eWTN37B0TQ)。また、この講演では将来の政府サービスの提供について ANNAI が描く d-Gov 構想についても説明させていただきました。プレゼンテーションに使用したスライドはこちらからダウンロードできます。
経済産業省向けのサービスであるJグランツ(https://jgrants.go.jp)は、より大きな構想である d-Gov の雛形的な位置づけとなります。このポストでは d-Gov 構想にもとづくシステムが政府や国民にどのような利益をもたらすかについて、講演で触れなかった詳細についてもご説明したいと思います。
d-Gov 構想について
ANNAI が提唱する d-Gov 構想とは、政府が国民に提供するサービスを汎用的なプラットフォームとして構築することで、政府と国民をつなぐインターフェイスとしてコミュニケーションフローを確立するものです。これが具体的にどのようなものかを以下に説明したいと思います。
申請手続きに共通するフロー
運転免許証の更新、転出・転入届け、パスポートの申請等々、役所での様々な手続きは市民の生活において欠かせないものです。これらの手続に共通するのは:
申請 → 承認(または差し戻し/却下)→ 発給/給付
というフローに従っていることです。
また、政府機関による委託事業請負の選出に関しても、提案依頼書の交付から入札・選定に至るプロセスは、基本的なフローが上記の手続きと本質的に変わりません。
このように手続きのフローに共通性があるにも関わらず、現状では各自治体が手続きごとに異なるシステムを開発しており、これは国レベルで見ると開発コストだけを考えても非常に無駄が多く、また実際の運用においてはシステムの差異による操作の複雑化や、データが一元管理できないことにより業務が煩雑化するなど、様々な問題につながります。
d-Gov 構想の提示するシステム
d-Gov 構想が提示するシステムは、モジュラーで柔軟性の高いプラットフォームを構築することで、諸種手続きに合わせたワークフロー構築を、開発者の関与を最低限におさえながら可能にします。またこのプラットフォームを用いて、国民からの申請はもちろんのこと、政府から民間に発注する業務を管理することも可能になります。d-Gov 構想は役所業務のシステム化を効率的し、国民にとっての行政のサービスの迅速化やクオリティの向上に寄与することで、政府と国民の距離を近づけることを目指します。
ANNAI の開発したJグランツは、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律で定められたフローに特化したシステムとして構築されているものの、d-Gov 構想のアイディアに基づき、事務局ごとに大きく異なる承認などのフローにも柔軟に対応できる作りになっています。
オープンソース化による、さらなる恩恵の増大
ライセンス料が不要に
Jグランツは、Drupal というオープンソースのフレームワークをベースに作られています。オープンソースソフトウェアを利用することの第一の利点は、例えば Salesforce のようなプロプライエタリのソフトウェアやサービスに、ユーザーごとのライセンス料を継続的に支払う必要がないことです。これだけでも莫大な費用の節約が可能になります。
開発と保守費用の削減
セキュリティや信頼性が保証された既存のオープンソースフレームワークを利用するだけで、相当な額の開発費を節約することが可能になります。また、ソフトウェアには保守が欠かせませんが、脆弱性やバグに対するサポートが無料で受けられたり、新機能でさえ無料で追加できるものがあるというのも、オープンソースの大きな魅力です。
コードという形での国民への還元
また、政府のシステムをオープンソース化してコードを共有・保守することは、国民や企業が納めた税金を特定の企業に落とすのではなく、国民や企業が利用可能な形で還元できるという意味で、非常に経済的価値の高い行動と言えます。これは夢物語のように聞こえるかもしれませんが、現に 150 以上の国の政府機関が Drupal を利用しているだけでなく、代表的な例としてはオーストラリア政府が 2014 年から Drupal をベースに作成した GovCMS ディストリビューションを用いてあらゆる政府サイトを立ち上げ、そのコードを公開していることなどが挙げられます。政府のシステムのオープンソース化に関しては Drupal 以外でも様々な例があり、著名なものとしてはアメリカ連邦政府の Code.gov があります。ここでは同政府向けに開発された実に様々なオープンソースのコードを閲覧・ダウンロードすることが可能です。
世界規模での連携や活用
上で挙げた申請手続きのフローは日本だけに特有なものではなく、世界の多くの国々でも共通するものです。d-Gov をオープンソース化することで海外の開発者との連携による開発を可能にし、海外の政府で利用されることで更に開発が加速し、利便性や安全性が向上することも期待されます。
まとめ
d-Gov 構想は、政府のサービスの共通性を元に効率的なシステム化やコストの大幅な削減をもたらすだけではなく、均質的なサービスにより政府と国民との距離を近づけることを目指します。また、オープンソース化により、国民への還元や、海外の開発者との協力により利便性を向上することが可能になります。
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