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1994 年 7 月にアメリカのクリントン政権がホワイトハウスのウェブサイトを開設して以来、政府のウェブサイトは非常な進歩を遂げました。今日の政府ウェブサイトは、人口 5,000 人の小さな町から国全体まで、その管轄区域のすべての人に対してあらゆるサービスを提供することが求められています。最近のブログ記事「2023 年のベスト政府ウェブサイト」で紹介したように、魅力的なデジタル窓口として、幅広いオンラインサービスを最高の効率で提供し、すべての人にとって包括的でアクセスしやすい体験を提供することが期待されています。

また、政府には、これらのウェブサイトの構築と維持に費やした税金に対して責任を持つことが求められています。2016 年、カナダ政府のウェブサイトの全面改修が 700 万ドル以上の予算超過となったとき、メディアはこの話を大々的に報じました。

多くの政府系ウェブサイトが、その高い要求に応えようと苦心しているのは、驚くにはあたりません。Forrester 社が 2019 年に実施した米連邦カスタマーエクスペリエンス指標によると、民間企業のブランドのわずか 14% に比べて、米国連邦機関のなんと 80% が「悪い」または「非常に悪い」と評価されました。COVID-19 は電子政府への移行を加速させるのに貢献しましたが、公共部門は依然として多くの課題を抱えているのです。

政府にとって最も重要なこと

自治体や連邦政府にとって最適なウェブサイトを作るためには、多くの要件を満たす必要があります。主な優先事項は以下の通りです:

  • 柔軟性 - 政府のウェブサイトには、幅広い公共サービスの提供が期待されます。これは、直接事務所に出向いたり電話したりする政府職員の負担を軽減する上で役立ちます。
  • 拡張性 - 政府の提供されるサービスの変化に合わせてウェブサイトも拡張・進化できる必要があります。
  • アクセシビリティ - 障害者のためのウェブアクセシビリティに関して、政府サイトは世界最高水準に達している必要があります。WCAG 2.0 レベル AA 以上への準拠が法律で義務付けられている地域も増えてきています。
  • セキュリティ - 政府のウェブサイトは、ランサムウェアやデータ漏洩から選挙のセキュリティや失業保険の不正受給に至るまで、サイバー攻撃に対して特に影響を受けやすくなっています。
  • 透明性 - 政府は、ウェブサイトの開発や保守などの支出に公金を使用する際に、透明性を確保することが期待されています。

官公庁サイトにおける Drupal の普及について

政府のウェブサイトといえば、Drupal はあらゆるところで活用されています。2021年現在、世界の政府ウェブサイトの約 56% が Drupal を使用しています。オーストラリア、エストニア、フランス、ドイツ、インド、南アフリカを含むいくつかの国は、中央政府ポータルを Drupal で構築しており、その他のほぼすべての国の政府は、少なくとも一部の機関に Drupal を使用しています。Whitehouse.gov は 2009年から 2017年まで Drupal を使用していたことで有名ですが、これは透明性を高めることを目的としたオバマ政権による初期の試みでした。

Drupal を利用している他の主要な管轄区域には、ロンドン、ロサンゼルス、ワシントン DC、ブエノスアイレス、ニューヨーク州、ニューサウスウェールズ、西オーストラリア、北アイルランドなど、多くの例が挙げられています。

国際機関では、2022 年 11 月現在、国連と世界銀行内の全 117 組織のうち 78 組織が Drupal を使用しており、un.org 自体や国際刑事裁判所も含まれています。

カナダでは現在、全政府機関のウェブサイトの約 25% が Drupal で運営されています。これらには以下が含まれます:

  • 首相官邸
  • 王立カナダ騎馬警察(RCMP)
  • カナダ安全保障情報局(CSIS)
  • オープンデータ・カナダ
  • オンタリオ州政府

なぜ政府機関は Drupal を選ぶのか?

Drupal が政府系サイトの中で世界的に圧倒的な存在感を示しているのには、多くの理由があります。ここではそのうちのいくつかを紹介します。

1. 透明性と説明責任

Drupal のようなオープンソースの CMS を選択することは、プロプライエタリな CMS と比較して明らかなコストメリットがあります。Drupal のサイトは無料で構築できるわけではありませんが、プラットフォームに付随するライセンス料がないため、コストの管理は非常に簡単です。これは、数百とは言わないまでも、数十の政府部門にまたがって展開する場合に特に当てはまります。

Drupal は、サイト構築後のコスト管理にも優れています。Canada.ca に統合される以前は、政府機関では異なる CMS を使ったユニークなウェブサイトを多数管理していたため、メンテナンスやアップグレードに複雑なコストと手間がかかっていました。これに対してDrupal は、政府機関がカスタマイズ可能な既存のウェブサイトコードを共有したり、デザインや機能を複製することを容易にします。

さらに、Drupal はオープンソースのプラットフォームであるため、(万が一、別のプラットフォームに移行したい場合にも)比較的容易に移行することができます。一方でプロプライエタリなプラットフォームの場合、顧客はプロバイダにこだわるか、ゼロからやり直すかの選択を迫られます。Canada.ca と Adobe のケースが良い例です。[訳注:カナダ政府の 1,500 のウェブサイトを Adobe の CMS に移行するプロジェクトが納期遅延・大幅な予算超過に見舞われたケースへの言及。参考記事はこちら]

納税者への説明責任という観点からも、オープンソースは明らかに賢明な選択です。

2. プレッシャー下でのパフォーマンス

パフォーマンスの最適化はどの程度重要なのでしょうか?多くの政府機関のサイトのようにトラフィックの多いウェブサイトにとっては、これは非常に重要です。2018 年、BBC は、サイトの読み込みにかかる時間が 1 秒増えるごとに、10% 程度のビジターがサイトを離れることを発見しました。政府機関のウェブサイトでは、読み込みの遅れは、有権者の不満につながるだけでなく、最悪の場合、重要な情報の伝達を損なうことにもなりかねません。

  • 政府機関のウェブサイトは、常にアクセスが集中するわけではありませんが、トラフィックの急増に対応できるようにしておく必要があります。
  • 連邦税収機関は、税金の支払い時期になると限界まで負荷がかかります。
  • 災害救助機関は、いつでもトラフィックの急増に対応できるように準備しなければなりません。
  • パンデミックでは、国や地域の保健当局は予想外の状況に対応することになりました。

以前のブログポスト「豪雪を耐え抜く:緊急時に備えた通信戦略(英語)」で触れたように、小さな自治体であっても、予期せぬ危機に対応するためのデジタルコミュニケーション能力を備えておく必要があります。

プレッシャーのかかる状況下でのパフォーマンスに関しては、Drupal は WordPress などの他のオープンソースプラットフォームを大きく凌駕しています。Drupal は元から非常に効率的で、重いトラフィック負荷を管理できるように作られています。また、Drupal にはキャッシュとファイルアグリゲーションのメカニズムが組み込まれており、ページの読み込み時間の短縮や転送データ量の節約が可能です。

3. セキュリティ

最近公開したオープンソースの俗説を覆すブログ記事で説明したように「プロプライエタリなウェブサイトはオープンソースのものよりも安全」という、広く信じられている思い込みは真実ではありません。オープンソースのコードは悪意ある者を含め誰でも利用できますが、Drupal は舞台裏で活躍するコントリビューターの集団により、常にプラットフォームの安全性が保たれています。

Drupal が政府機関の間で人気があるのは、その比類なきセキュリティを証明するものです。Drupal は、データベースの暗号化を必要とする PCI コンプライアンスなどの複雑なセキュリティ状況への対応において WordPress に勝っており、また WordPress はサードパーティの拡張機能への依存度が高いため、より脆弱です。また、WordPress のサイト数がDrupal のサイト数よりはるかに多いという単純な事実は、WordPress が Drupal より頻繁に狙われることを意味します。もちろん、どのような CMS であっても、適切にアップデートされないと攻撃による被害を受けることは肝に銘じておく必要があります。

政府にとって Drupal の更なる利点は、機密データの取り扱いにあります。WordPress は、この分野では特に脆弱です。WordPress では、ファイルは一貫して /wp-content/uploads/[YEAR]/[MONTH] というルールに基づき命名されたディレクトリに保存されるため、WordPress の基礎知識(と少しの運)があれば、ファイルに不正にアクセスすることはかなり簡単です。この点において Drupal はより安全な仕組みを持っています。ファイルへのアクセスが許可されるのは、ユーザーが適切な権限を持っている場合にのみ限定することが可能です [訳注:また、アップロード先のディレクトリー名を任意のものに変更することも可能です]

最近の分析によると、WordPress は全ウェブサイトの約 64% を占めていますが、ハッキングされたウェブサイトのほぼ 4 分の 3(74%)を WordPress が占めています。一方、Drupal は、サイバー攻撃対象全体の約 2% に相当します。世界のトップ 10,000 のウェブサイトのなかで Drupal の利用率が 10% 以上を占めていることを考えると、これはかなり良い割合と言えるのではないでしょうか。

4. 柔軟性と拡張性

政府機関のウェブサイトに求められるもう 1 つの重要な要件は、政府機関のサービスに合わせて適応・拡張する能力です。新しいバス定期券システムの導入、パンデミック対策の展開、近隣の自治体との合併、新しい言語でのサービスの追加など、サイトは柔軟性と拡張性を兼ね備えている必要があります。

Drupal のオープンソースモデルは、特定のベンダーへの依存に陥らないことを意味します。また、Drupal を支える巨大な開発者のコミュニティは、即利用可能なモジュールのライブラリの成長に貢献しています(2023 年 2 月中旬現在、約 50,000)。またライセンス料が不要なため、プロプライエタリなプラットフォームに比べ、サイトを拡張するコストが大幅に削減できます。

Drupal は、全体的に WordPress よりも柔軟なプラットフォームであり、深いカスタマイズに適した選択肢です。Drupal は、柔軟で広範なタクソノミーシステムを提供し、大量のコンテンツの処理に適しています。また、多言語サポートが組み込まれています。Drupal は、バックエンドにおいても WordPress よりも柔軟性があります。無制限の役割に対応した高度なユーザー権限を備えているため、数が増えがちなマーケティングチームや IT チームに適しています。

行政サービスや職員は時代に合わせて常に変化しており、CMS も同様に環境に適応できるものが必要です。Drupal は、それを可能にする CMS です。

5. アクセシビリティ

Drupal のようなオープンソースプラットフォームの固有の強みの1つは、包括性と貢献するコミュニティの多様性への継続的なコミットメントです。そのため、オープンソースプラットフォームはウェブアクセシビリティを支える主要な原動力となっています。

プロプライエタリなベンダーは、ほとんどの政府機関のウェブサイトにおいて、最低限のアクセシビリティレベルである WCAG 2.0 AA を実現します。しかし、それ以上のウェブアクセシビリティのためのカスタマイズは、すぐに非常に高価なものになってしまいます。それに対して、Drupal は常に新しいアクセシブルなコンポーネントを導入しており、チームはそれを使って簡単にサイトを拡張し、全体的にアクセシビリティを確保することができます。

Drupal が他のプラットフォームよりも本質的にアクセシビリティに優れているわけではありませんが、そのカスタマイズ性と多数のアクセシブルなモジュールの提供により、政府にとって論理的な選択肢となっています。

6. パーソナライゼーション

政府は、民間企業に比べてデジタル・パーソナライゼーションの導入が遅れていますが、この分野で顕著な進歩を遂げている政府もあります。パーソナライゼーションによって、政府は市民と 1 対 1 のオンライン関係を築くことができます。また、個々のユーザーに関連するコンテンツを促進することで、政府機関のウェブサイトに掲載されている膨大な量の情報を、サイト訪問者がナビゲートしやすくすることが可能になります。

パーソナライゼーションに関しては、Drupal は他のすべてのオープンソースプラットフォームを圧倒しています。Drupal の高度なカスタマイズ能力をベースに、様々なパーソナライゼーションモジュールが組み込まれています。一方、Acquia のパートナーは、Drupal に最適化されたクラウドベースのパーソナライゼーションプラットフォームを提供し、複数のチャネルにおいて最先端のパーソナライゼーションを提供します。

カナダ政府機関向け特典

もしあなたがカナダの連邦政府機関であるなら、あるいは単にあなたのウェブサイトをカナダ政府のルック&フィールにしたいのなら、Drupal にお任せ下さい。Web Experience Toolkit (WxT) は、Canada.ca のデザインシステムおよび他の政府サイト向けにカスタマイズされた Drupal のバージョンで、アクセシビリティ、ユーザビリティ、相互運用性、バイリンガルに関する同様の要件をカバーしています。

WxT のインストール方法とその機能の詳細については、このテーマについての最近のブログ記事を参照してください。

 
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この記事を書いた人: ANNAI株式会社

ANNAIは、2009年からDrupal専門のWebシステム開発会社として、世界規模で展開するグローバル企業や大学・自治体を中心に数多くのWebソリューションを提供。
CoreやModuleのコントリビューターなど、Drupalエキスパートが多数在籍。国内ユーザーコミュニティへも積極的にコミットし、定期的なセミナーの等の開催を通じて、オープンソース技術の普及や海外コミュニティとの緊密な連携を図っている。
Webシステムの企画・開発〜デザイン、クラウド運用までをワンストップで提供する他、Drupalのコーディングを評価する"Audit業務"や最適なモジュールの調査・選定等、幅広いコンサルティングを行っている。Drupalアソシエーション公式パートナー。

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