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Drupal事例解説:製薬メーカーでのコンテンツ管理編

これは分散型コンテンツ管理に関する連載の第3回目です。第1回目では、「分散型コンテンツ管理」という用語をいくつかの例を交えながら定義しました。2回目の記事高等教育の現場における分散型コンテンツ管理の事例では大規模な大学を例として挙げて、分散型コンテンツ管理について説明しました。今回の記事では、製薬メーカーに焦点を当て、もう一度、分散型コンテンツ管理について議論を進めていこうと思います。

製薬メーカーにおけるコンテンツ管理とは?

他のどの分野の業界よりも、製薬メーカではサイト内のあらゆるコンテンツのライフサイクルについて注意を払わなければなりません。製薬業界では適切に審査承認された、正しい情報を医療従事者と消費者の両方に提供する事が求められます。

製薬業界においてウェブコンテンツは、極めて厳格な審査と統制を経て公開されなければなりません。 これには、全てのデジタル資産を一貫して管理する事が求められます。大企業においてはグローバルに展開する、数百、数千にもおよぶウェブサイトやチャンネルの管理が必要とされます。

コンテンツ公開ワークフローを用いた効率的な審査レビュー

一見、分散型コンテンツ管理という概念が製薬メーカーにどのように関わってくるのかピンとこない方もいると思います。前回の記事ではコンテンツ作成者に権限を与え、コンテンツ作成におけるボトルネックを解消する事に「分散型コンテンツ管理」を用いましたが、規制産業である製薬業界で同様の事を行うのはなかなか挑戦的な事です。しかし、私は同時にコンテンツ承認、公開フローはそれぞれの事例毎に独自に設計される必要がありますとも述べました。

メディカルリーガルレビュー(新薬の発売時などに行われる法的な審査)をCMS内で実施する場合のコンテンツ公開フローを考えてみてください。いくつかのウェブシステムにおいては、ステージングサイト機能(コンテンツの変更がステージされた、公開用サイトの完全なコピーを作成する機能)を備えた、多層構造のプラットフォームを必要とします。そして、これらのステージングサイトはコンテンツが公開される前に、その内容が法的に問題がないかチェックを行うのに利用されます。 これは、オフラインで文章を回覧するより明らかに効率的です。利用しているテクノロジーへの深い理解は、効率性を高め、リスクのコントロールに繋がります。 DrupalのようないくつかのCMSでは、ステージングサイトを使わずに、公開用サイト内における承認フローを可能にします。また、ユーザー権限と役割に基づいたコンテンツの閲覧制限や公開設定をコントロールする事ができます。

この方法を採用している製薬メーカーでは、何重もの審査や承認が必要な業務において、サイト編集スタッフに適切な役割を割り当てる事で、公開用サイトへの新規コンテンツのデプロイにかかる時間とコストを削減しています。また、こういったシステムの導入はステージングサイトを管理する手間から私たちを開放してくれます。

コントロールされた単一ソースからの公開

製薬業界において、全てのコンテンツが分散型のコンテンツ配信に向いているとは言い切れません。 いくつかのコンテンツは厳しく規制されているだけではなく、製品が売り出される時には適した内容にアップデートされ、審査を得た後に再利用されます。そして、中央の情報ソースから広く配信されていきます。

例えば、重要な安全情報や指示などは、製薬メーカーが中央のコンテンツリポジトリからのみ選択して配信するコンテンツです。 「全てのコンテンツ編集をコンテンツリポジトリ内で行う。」つまり、個々のサイトがそれぞれの部門で勝手に更新されるのを禁止するというルールを作る事で、製薬メーカーはそれぞれのウェブサイトでの承認ワークフローを必要としなくなります、その結果、多数のサイト間の重要な情報がミスなく、タイムリーに更新されます。

コンテンツのシンジケーション(個別のコンテンツを効率よく組み合わせて管理する事)は組織が分散型コンテンツ管理を考える上で非常に良い機会です。今後の記事で、シンジケーションを検討する際に利用可能なテクノロジーである、Acquia Content Hubにも触れたいと思います。

複数チャンネルのブランドコンテンツ

単一ソースコンテンツのシンジケーションも、製薬メーカーに複数のチャンネル間を横断した販売促進の機会を提供します。Eコマースを例に取ってみましょう。多くの会社が、自社の製品ブランドのサイト内にEコマース機能を実装するのではなく、例えば、BigCommerce、Demandware、Magentoなどの独立したオールインワンのEコマースシステムを導入しています。

確かにこれには非常に納得できます、なぜなら、これらのシステムはギフトカード機能やクーポン機能、中央在庫管理システムを実装しており、ある製品の購入者に他の製品の購入を促すような、販売をより促進する仕組みを持っているからです。しかし、これらのストアはメインブランドのサイトからは独立しており、新たに商品説明や、使用法や服用法、成分表などのをストア独自に表示する必要があります。

これらの情報をコンテンツリポジトリからプログラミングを用いて自動的にEコマースシステムに配信する事で、製薬メーカーはストアに直接情報が掲載されるリスクを防ぐ事ができます。また、すでに製品ブランドのサイトで実装されている、合理的な規制コントロールシステムを利用する事ができます。

会員に向けたコンテンツ配信

マーケティング用のコンテンツに加え、製薬メーカーでは医療関係者に向けた大量のコンテンツを保有しています。どのコンテンツを医療従事者向けに提供するか、彼らがどのようにアクセスするのか、また、どの様にその情報を探しているユーザーが医療従事者であるかを識別するのか、これらの事柄は製薬メーカにおける分散型コンテンツ管理の重要な検討項目です。

一般的によく使われるアプローチとしては、医療従事者向けコンテンツを地域別のポータルサイトに割り振る事です。ポータルサイトでは、医療従事者がアカウントを持ち、それぞれの地域や国毎の情報をログインして閲覧できます。これらのアカウントの識別の問題を解決するために、しばしば国内で登録されている医療従事者の情報を専門に扱うDocCheckやCegedimなどの情報プロバイダ(Identity Provider)が利用されます。

しかし、それぞれの国々に依存した異なるいくつものシステムを実装する事は、オーバーヘッドと、時には別々のプログラミング言語で書かれた何種類ものコードの管理をもたらします。そして、これらは誤ったコード実装によるエラーの原因となります。そのため、グローバル展開する製薬メーカーにおいては、異なる情報プロバイダから提供されるコードを統合するために、認証や登録の面でより中央管理されたMulesoft Anypoint Platformのようなインテグレーションプラットフォームを選びます。そして、Janrainのような専門のIDマネージメンシステムを通じた、同時アクセスを提供します。

終わりに

いかがでしたか?この事例で参考にすべき点は「ワークフローを効果的に活用し正しい情報を発信すること」「ワークフローを適用すべきではないケースでは原本となる一つのソースを複数のサイトで展開できるようにすること」の2点だと思います。人命に関わる情報を提供しているサイトだからこそ求められる柔軟なガバナンスが必要な事例として、ぜひ参考にしてください。なお、Webガバナンスについてはこちらの「DrupalとWebガバナンス」も参考にして頂ければと思います。

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「高等教育の現場における分散型コンテンツ管理の事例」

(Photo by freestocks.org on Unsplash)

 
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この記事を書いた人: Satoshi Kino

ANNAI 株式会社 CEO
 

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