学校・教育現場での分散型コンテンツ管理事例
このシリーズの最初の記事、「詳細解説!分散型コンテンツ管理とは何か?」において、私は2つの概念、「コンテンツの分散型管理」と「分散しているコンテンツの管理」の意味合いについて定義しました。その中で、私は大きな大学を例として挙げ、高等教育における有効なデジタル戦略の一環としての「分散型コンテンツ管理」の二つの側面に関する検討の必要性について述べました。
この記事では、この概念についてもう少し深く掘り下げ、事例を交えながら議論していきたいと思います。
今回の設定はDrupal大学
この記事を読まれている皆さんには大きな大学をイメージしていただければと思います。この大学を「Drupal大学」と名付けましょう。他の高等教育機関と同様に、Drupal大学の教育プログラムは複数のスクールに分かれています。そして、それぞれのスクールは学部に分かれています。
小さなスクールでは3~5の少数の学部があります。しかし、人文系や医学系のスクールにおいては25以上の学部がある事も多々あります。また、忘れてはならないのが、これらの学部それぞれが異なった教育プログラムを実施しています。それに加え、研究室、学生会、管理部門など様々なものがあり、大学のwebという物がいかに急速に複雑化していくかが容易に想像できると思います。
この様な規模で、それぞれ異なる要件を持つ数百ものウェブサイトを管理していかなければなりません。こうなると、「分散型コンテンツ管理」の出番です!
それでは、事例を見ていきましょう。大丈夫、簡単な事例から始めますので安心してください。
それぞれのウェブサイトの投稿ワークフロー
Drupal大学のウェブプラットフォームにおいて、この戦略は明白です。大学として専門の情報配信職員を大量に雇うのでなければ、大きな大学では単純にコンテンツ作成を分散すべきです。これは、必ずしも専門の職員を雇わないほうがいい、という意味ではありません。
コンテンツ承認フローの検討は分散型コンテンツ管理を採用している組織においては、極めて重要な検討事項です。承認フローは自動、マニュアル操作に関わらず、大学本体だけではなく、それぞれのスクール、学部などウェブサイトの運営に関わる全てのグループにおいて必要です。
大学への入学に関する情報を配信するサイトに掲載されるコンテンツは、8人程度の研究室のブログとは比較にならないほど、入念な確認が必要です。
また、25もの学部を持つ、大規模なメディカルスクールではスクール独自のマーケティングや情報配信に特化した部門を持っているでしょう。一方、小規模なスクールにおいてはそうではありません。小規模なスクールでは、中央からの財源を得るために、戦う必要があります。
これはまさに、あらゆる規模の要件を満たすシステムは存在しない事を意味します。
コンテンツを外部にシェアする (分散型ウェブプラットフォームにおける集中型コンテンツ)
極めて分権化された大学においても、中央において作成されたコンテンツは存在します。中央で作成された記事をシェアする場合には、多くの場合、単純にそれぞれのサイト内の記事中で、シェアしたい記事へのリンクを貼るのが最も簡単です。
しかし、仮に学生が名誉ある賞を取った場合のニュース記事を考えてください。
大学本体サイトのニュースセクション向けに、情報配信部門にて作成されたこの記事は、その後、戦略上、さまざまな場所に再び投稿されるでしょう。例えば、学生向けの教育プログラムのサイト、彼女の所属する研究室のサイト、入学課が管理するサイト、同窓生向けのサイトなど様々な所に再度投稿される可能性があります。この様な、元記事のコピーによる投稿は非効率的で、そのうえ、コンテンツの分散を招きます。まして、元記事の内容を編集したり、非掲載にした場合の事も考慮するとなおさら厄介です。
後日、このブログにて多数のサイト間でコンテンツを効果的にシェアするために、組織で実際に使用されている、テクニックやプロダクトを紹介したいと思います。
コンテンツを内部でシェアする (情報配信元としての分権型ウェブサイト)
コンテンツ作成のスタート地点として分散したウェブサイトを考える際に、他の興味深い事例が思い浮かびます。ほとんどの大学では学内のイベント情報を、大学の本体サイトやイベント管理システムのカレンダーで管理しています。Drupalのように洗練された分散型コンテンツモデルを持つCMSでは、閲覧者が同じメタデータを持つイベントをフィルタリングできます。例えば、聴講生、学部、プログラム等、容易にイベントを様々なサイトに配信する事ができます。
残念な事に多くの場合、新規イベントを掲載する際に、Drupalで実現できるこのようなレベルの配慮が常になされているとは言えません。なぜなら、大学全体のカレンダーには学内全てのイベント情報が掲載されていて、これらは、編集権限を持つ特定の人達にしか編集できないからです。
コンテンツの管理権限を持つ、コンテンツ管理者は基本的にイベントを管理するため権限を与えらていません。もし、イベント編集権限を与えらていたとしても別のシステムで管理されているため、わざわざウェブサイトとは別のイベント管理システムにログインしてイベント情報を掲載しなければなりません。
では、どのようにしたらよいでしょうか?
それぞれのサイトとイベント管理システムが同じテクノロジーを用いて運用されていれば、大学全体のカレンダーからイベント情報を容易に個々のサイトに受け取り、配信する事ができます。そして、コンテンツ管理者は普段サイトを更新しているのと同じシステムの中でイベントを公開する事ができます。(もちろん、先に述べたような承認とワークフローを実装する事もできます。)
コントロールされたコンテンツシステムの導入
分散型コンテンツ管理の最終的に目指すゴールは、一貫し、コントロールされたコンテンツを複数のサイト間で不一致が無いように公開するためのシステムの実現です。
高等教育現場においてよくあるケースとしては、コースカタログシステムです。(Acalog, SmartCatalog, CourseLeaf等)この様なシステムの主な目的は、 コースの概要や、内容、単位、費用などの情報を提供している学生向け情報システムを統合する事です。もし、大学がコースの概要をそれぞれ別々のプログラムのサイトで公開するとしたなら、ユーザーによるエラーや見過ごし、コピーアンドペースト時の間違い、アップデートされずに放置してあるコンテンツの排除など、さまざまな事が課題となってきます。
したがって、これらのシステムを統合するための戦略を練る事は、分散型コンテンツ管理への標準的なアプローチに頼るよりも、大学のコンテンツ戦略においてとても重要です。
終わりに
いかがでしたか?大企業と同じく大学にも色々な部署やグループがあり、それぞれにコンテンツ編集者(発信者)がいます。全学に周知するために送った情報でも、そのコンテンツを再利用できずにコピペして再投稿することで情報管理が難しくなるケースがあります。そういう自体を無くし、元になる情報を色々なページに展開しやすくすることでサイト運営のコストを下げようというのが基本的な考え方になります。Drupalはそのような「情報の再利用」がしやすいフレームワークとして、政府・大学・グリーバル企業で多く利用されています。日本の大学では広島大学で利用されていますので、よろしければ参考にしてみてください。
(Photo by Sebas Ribas Unsplash)
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